Shadow
厳しい状況だという事をただただ実感させられた昨晩。床で寝たため身体がバキバキだがうっかりアフェットと一緒に寝て寝首をかかれた方が恐ろしい。
「もう、大人しくベッドで寝れば良かったのに」
「何をするか分からん奴と寝る訳がないだろう」
「私だって嫌がってる人に無理矢理襲い掛かるなんてしません~」
唇を尖らせてアフェットが抗議しているが、普段の言動が裏目に出ているとしか言えん。本人にその気が無くとも普段からそれをほのめかすような冗談を言うやつが信用されると思うな。
ぶーぶーと言いながらシャワーを浴びに行ったアフェットを視界の端に収めながら、俺は部屋にあるテレビを付ける。
朝のニュースのチェックだ。昨日今日で早々に世の情勢やこの街で大きな動きがあるとは思わんが、それでも細かな情報を逐一チェックしておくのが情報を集める最善手だろう。
地味だが地味こそ続ければ大きな力になるのは何事においても言える。見た目が良く、派手なのは他人にアピールするためのパフォーマンスだ。
これも必要なことではあるが、地味な努力に比べると効果が随分と小さいだろうと俺は考えている。
そうやってチャンネルを変えて様々なニュース番組を見ているととある番組に目が留まる。
「……」
特に代わり映えのしないニュース番組やバラエティー番組の中でやっていたのはドラマ、だろうか。役者だろう人物が緊張した面持ちで画面の中を走っている。
【どうして人を無意味に傷つけるんだ?!】
【どうして?笑わせる!!生命の基本は闘争!!争い、闘い、傷つけ合い!!己の価値を証明する!!そうしなくては生きてゆけぬ!!貴様とてそうであろう、仮面ダイバー!!貴様とて戦わなければ己の価値を見出せぬ獣よ!!】
【……確かにそうだ。俺も戦いが無かったら仮面ダイバーに変身することが無かったら自分が何が出来るのかも分からない】
役者が怪物と会話をしている。怪物の方はおどろおどろしい造形であり、非常に恐怖を煽るような姿だ。魔獣だとしてもあり得ないような姿だが、不思議と違和感を感じない。
いわゆる着ぐるみの一種なのだろうがそれを感じさせないのは洗練された技術の高さを伺わせる。
「ふむ、中々に深い話をしているな」
詳しくは知らないが、恐らく子供向けの実写アニメーション。或いはドラマなのだろう。
ドラマもアニメも見たことが無いが、内容は詰まっているだろう。
子供向けではあるが、大人にも楽しめるように深い題材を用いたシナリオ作りをしている、と思う。
初見な上に途中から見ているので、実際どうだかは知らん。
【だけどな、争いが生き物の根源だとしても争う事を楽しんでるのは間違ってる!!生きるために戦うのと!!楽しむために戦うのは違う!!ましてや戦う意思すら無い人達を一方的に傷付けるお前が偉そうに講釈を垂れるな!!】
敵の怪人を指差し、主人公と思われる青年が吠える。
正義感溢れる台詞だ。ただの正義の押し付けでも無く、人が人として生きる業は認めた上でその間違いを指摘し、そして自分の思っている正義を貫こうとしているサマには見覚えがある。
自然と脳裏に浮かんだアリウムフルールの姿に思わず口角が上がるのを感じる。
奴もそのクチだ。清濁を飲み込んだ上で己の為すべき事を全うするその強い意志。
アレを見る度に負けたくないと強く思う。
【ならばその行いと力を証明してみせよ!!勝ち取ってみよ!!貴様が戦う意味とやらをこの俺に見せつけてみろ!!】
【言われなくともやってやるさ!!俺は、俺が納得する為に戦う!!】
誰に評価されるでもなく。正義のヒーローを目指すのでもなく、自分が納得する為に戦う。
自分が納得いかないから戦う。随分身勝手な考えだが、元より人間とはそんなものだろう。
他人の意見に流されるような連中に何か出来るはずもない。
そこに自分の意志決定が無いのだからな。
【『変身』!!】
画面の中できらびやかで派手に飛び交うエフェクトと音楽を見ながら、俺は思考にふけりそして自嘲する。
そういう意味では俺もまた自分で意志決定をしていない三流なのだろう。
俺は生まれた場所が悪の組織だったから、その意志に従って行動しているだけだ。それ以上も以下もなく、それ以外の生き方を知らないし、どうすれば良いのかも検討がつかない。
まして、自分が一般人の様に生活している様子をそもそも想像が出来ない。
俺は生まれた時点で悪の手先なのだ。もしかしたらそれが原因でアリウムフルールと戦うのを楽しみにしているのかも知れない。
自らとは正反対の生き方をしているだろうあの魔法少女と戦いの中で語らうことがきっと楽しいのだ。
「随分子供っぽいのを大真面目に見てるわね。気に入ったの?」
そんな事を考えていた俺の後ろからシャワー浴び終えたアフェットが声を掛けて来て飛び上がったのは忘れて欲しい。
アフェットには大笑いされた。おのれ。




