Shadow
必要な物を買い揃え、暗くなる前にホテルに戻った俺達は早速買って来た雑誌や新聞、ネットニュースなどに目を通して行く。
「厄介な事になってるわね〜」
「悠長な事を言ってる場合か」
そして早々に頭を抱える事になった。
魔法少女協会の文字が踊る雑誌や新聞がこぞって取り上げていたのは、主に魔法少女協会のトップについてのニュースだ。
名前は諸星 光。諸星家の次男坊の妻であり、元敏腕検察官だったという女性がこの魔法少女協会を設立。現在トップとして指揮を取っているらしい。
そう、諸星。あの諸星の一族がトップを担っているという事。
これに頭を抱えないのなら相当な楽観的思考回路だ。
諸星グループは今や世界中にコネクションを持つ世界企業だ。諸星が無ければ世界が回らんとまで言われているその超巨大グループの影響力は下手な国家よりも上だろう。
主に流通を牛耳っている諸星グループはそれこそ今の分断されている人類の生命線。
手を切られようものなら街ごと滅ぶ事待ったなしな訳だ。
諸星にケンカを売ったとなれば、ケンカを売ったところはありとあらゆる企業、人から縁を切られるのは想像するに難くない。
巻き込まれてまとめて切られたのなら痛手ではすまないからだ。
つまるところ、諸星の敵とは世界の敵となる。俺達【ノーブル】ですら、あの手この手を使って諸星の管理下にある流通ルートから何かしらの物品や食料を手に入れたりしているのだ。
それが敵だ。国を相手取るより恐ろしい。
「よりによって諸星グループが最大手スポンサーで、しかも設立から何からこの諸星 光って人が関わってると」
「諸星グループには属してないとは言うが、突けば後ろから鬼が出てくるのは確定だ。これではロクに手出しも出来ん」
最悪、そのキレ者であろう諸星 光とやらを拐うなり暗殺する手も考えなくてはならないと思ったが却下だ。
した瞬間に世界が敵に回る。ウチが幾ら隠蔽工作をしたとしても世界中から袋叩きにされたらひとたまりもない。
なんてこったと頭を抱えるしか無いのだ。からめ手を使おうにも下手を打てばからめた腕ごと持っていかれない上に、根こそぎ引き抜かれるのでなかろうか。
「この元検察官、ってのも厄介ねー。捜査組織にコネがあるとなればそりゃ魔取りも警察も動くわよね」
「そのうえあの亀の魔獣を街で飼い慣らしているらしい。ドラゴン級の魔獣など簡単に捕まえられん。あのクライスが余計な事をしなければ……」
クライスのバカが本当に余計な事をしてくれていると改めて実感する。あの亀の魔獣は間違いなくドラゴンと同格だ。
いや、もしかすると亀の姿のドラゴンである可能性すらある。
クライスが持ち出した土竜もワニに酷似した姿をしたドラゴンであった。
元のモデルが同じ爬虫類と考えれば、ドラゴンと判断しても良いのかもしれない。
「魔法少女もS級の破絶がこの街から離れた代わりに、S級相当の魔法少女をこの街の魔法少女達の直属の上司、指導者に任命。その下でこの街の魔法少女達もメキメキと実力を上げている、って書いてあるけどそこのところはアナタ的には?」
「俺が戦ったのはそれよりも前だが、確かに着実に腕を上げている。新たにメモリーを獲得したりもしている事を考えると、最も最初に戦った時よりも数段上の戦闘能力を持っているだろうな」
その辺りはショルシエ経由でデータを貰えればより詳しく分かるだろう。
花弁の魔法少女アリウムフルールを筆頭に、陽炎の魔法少女シャイニールビー、激流の魔法少女アズールの戦闘能力の伸び具合は目を見張る物がある。
他の魔法少女も、恐らくこの期間に戦闘能力を格段に上昇させてると見るべきだ。
特に綺羅星の魔法少女ノワールエトワール、疾駆の魔法少女クルボレレなどはほとんど補助要員だった者だが、戦闘参加レベルになっているだろう。
楽観的見るより、そうして警戒を上げるべきだ。既に俺達の優位は崩れ始めている。
「ボスの目的には届かなさそうなのが幸いね」
「その目的の前に組織が壊滅しては意味がないがな」
愚痴も程々に止まっていた視線と手を再び動かす。大半はロクでもないゴシップだろうが、それでも摘めば何かの糸口になるといいんだが。




