その剣は何のために
「それだけ千草には良いところがあるんだよ。誰かに比べてとかじゃなくてさ、千草の良いところがさ」
じゃあそれはなんだと聞きかけて口を噤む。そういう事じゃないんだよな。誰かの比べるように具体的に私の良いところとやらを把握しろ、とかそういう訳じゃなくて既にこれだけ評価をされているのだから、自信を持って良いんだと言ってくれているんだ。
評価をしてくれている要に対して、あれやこれやと聞いて回答に困らせて、やっぱり評価されてないなどと言うのは失礼だ。
「ま、そうやって沢山悩むのは千草の良いところだと私は思うな。考え過ぎになっちゃうのが玉に瑕だけど、千草って必ず答えはだすもん。今は悩んじゃう期間ってだけ」
「そうだったか?」
「気付いてなかった?千草いつもそうだよ。悩み事があると自分で考えて、悩んで悩んで自分で良い答え見つけるの」
要からの新たな指摘に私は首を傾げる。確かに、悩み事は誰かに相談せずにずっと一人で悩んでることが多いと思う。
それは悪癖だと思っていたが、なるほど見方を変えれば短所も長所に変わるというのはこういうことか。
つまり、私の長所の一つは悩んでいてもそのうち自分なりの答えを出して、納得が出来るという事だろう。
確かに、一度悩んだ事柄でもう一度頭を悩ませるという事は少ない気がする。
「逆にさ、真白ちゃんって悩みだしたらずっと答えが自分では出せなくてホントにずっとクヨクヨ悩んでそうだよね」
「あー、それは確かにな」
真白は悩みだすと本当にドツボにハマるタイプなような気がする。私もドツボにハマるタイプだろうが、要の言い分から考えるにそのハマり方が違うんだろう。
いうなれば、私は泥に片足を取られて一時的に動けなくなってしまうタイプ。真白が腰までずっぷりハマってしまってしまうタイプ。
私はいざとなれば一人でも抜け出せるが、真白の場合は他人の力を必ず借りないと沈むだけだ。その差は大きいように思う。
真白のそれは自身をかえりみない結果、ぬかるみにドンドンと向かって行ってしまう訳だが、周りが止めたりハマる前や後に素早く手を引いてやれば大丈夫なんだろう。
その証に、昔は難しい顔ばかりしていた真白は良く笑うようになった。他人に頼ることを覚え始めたし、他人が目を配るようになったからだ。
「そんな真白ちゃんにいち早く気付いて、慣れないお姉ちゃんを熟してる千草が私は素直に凄いと思う」
「そうか?それに気が付いたのは美弥子さんかお義母様だと思うが……」
「いやー、私の見立てでは真っ先に気付いたのは千草だね。真白ちゃんが男の人にさらわれそうになってた事に一番最初に気が付いたのも千草なんでしょ?そういうヒーロー気質なところ、昔から変わって無いよね」
「ヒーロー気質?私がか?」
私がヒーロー気質だというのは、ちょっと言い過ぎというか違う気がするんだが要はそうだよと笑って答える。
上級生に絡まれた時も追い払ってくれたし、理不尽に怒った先生には真っ先に言い返してくれたし、おっきなハチが教室に入って来た時もすぐに追い払ってくれたでしょ。校外学習で歩くのが遅い子に合わせて歩いて皆のペースを調整したり、いじめが起こった時はすぐに解決しようとするし、と要は指折り数えながら私のヒーロー話とやらを次々と上げていく。
ヒーローというには内容が小物過ぎやしないかと思うが、要曰くそれでも誰かを助けようとする時や、誰かが危害を加えられている事が起きているとそれを敏感に察知するらしい。
全く自覚は無いが、長年クラスメイトをしている要が言うのだから、ヒーロー気質という呼称が正しいかはさておき、私はトラブルが起きると率先として解決しようとするらしい。
他人に相談せずに自分一人で悩んで答えを出すのもそういう気質なんだと要は言う。
「だから、私にとって千草はずーっとヒーローだし憧れだよ。千草が魔法少女をやってるって知った時もあー、やっぱり千草ってヒーローなんだなぁって真っ先に思ったもん」
「別に、私はヒーローをしたくて魔法少女を始めたんじゃないぞ?そもそもの理由も最初の頃の戦ってた理由も魔獣が憎くて憎くて仕方なかっただけだからな」
「でも、それはもう昔のことじゃん。今は全然違う理由で戦ってるように私は思うけど。それも千草らしいヒーローっぽい理由でさ」
今の私が戦う理由はもう別にある。そういわれて私はまた首を捻る。そんな風に思ったことは無く、私は私の戦う理由がずっと古錆びた復讐心から来ていると思っていた。
そうではないというなら何なのか、要に聞いてみると私が言っても千草は納得しないだろうから、自分で考えると良いよ。と返されてしまう。
私の捻くれた性格だと、確かに曲解しそうだ。要の言葉をヒントに自分で納得のいく答えを探した方が良いだろう。
「さてと、そろそろ皆のところに戻ろ。真白ちゃんにも謝らないといけないし、千草の彼氏の話もたっぷり聞かないとね」
「勘弁してくれ。真白には真っ先に謝るが、恥ずかしいのだけはとてもじゃないが」
「だーめ。ほら行くよ」
すいすいと車椅子を動かして部屋の入口まで行く要を追いかけて部屋のドアを開けてやる。
要のおかげで色々考え過ぎていた頭はすっきりした。真白には謝らないとな。
恋バナも、まぁその罰ゲームだと思うしかないか。




