その剣は何のために
「千草はさー、もうちょっと自分に自信を持った方が良いと思うよ」
しばらくぼうっとしていると、同じようにしていた委員長から声がかかり、そちらに顔を剥ける。
お互い顔をサイドボードにくっつけて、上下反対向きで向き合うという変な体勢での受け答えになるが、身体を起こす気力もあまり沸かず、このままで良いかと思う。
「自信、か。どうにもな」
「千草ってばさ、ちょっと理想が高すぎるんだよきっと。そりゃ真白ちゃんだって理想はおかしいくらいに高いけどさ。それはもう叶わないかも知れないって覚悟したうえでの理想の高さじゃん?」
「そう、だな。真白の言う『魔法少女を無くす』はそういうことだな」
「千草の場合はさ。高すぎる理想を自分で作って、どうせ無理だって諦めてる感じじゃん?それってなんか違うよね」
要の言うことは一理ある、というかその自覚は確かにある。高すぎる理想にそれでもその理想を超えて行くんだと何度も挑戦して行く覚悟を持った真白と、高すぎる理想を前にして呆然と立ちすくみ諦める自分とではまず根本的に違う。
元の性格が違うと言われればそれまでだが、自分の土台を踏み固めてしっかり挑む真白と、土台がぐちゃぐちゃのボロボロで立ち向かう気力すら失いかけてる私とではスタートラインが違うのだ。
恐らく、真白は何年もかけて自分の土台を整備して、準備をしただろう。元々真白の年齢が私よりも10歳も上だというし、仮にそれが失われてしまった10年であっても、確実に真白を構成する貴重な10年だったはずだ。
真白が経験した10年を私はこれから経験するのだ。それを考えると真白はハッキリ言って相当なズルをしているようにも思う。
時折、怖いくらいに大人びた思考をすることがあるのも、その10年の差なのだろう。
「千草が思ってるほど、千草は出来ない人じゃないよ。ううん、むしろすっごい出来る人。不器用って自分で言うけど、結構なんでもそつなくこなすしさ。優しいし、強いし、面倒見は良いし、皆に好かれてるんだよ?あ、性格はぶきっちょだけどね」
「やめろ恥ずかしい。背中がむずむずしてくる」
笑いながら褒めて来る委員長に止めろと言うと、委員長はもっと笑ってにぃっと白い歯を見せる。
買い被り過ぎだ。私はそんなに立派じゃない。自分に出来ることをなんとかやろうとしているだけで、それ以上でもそれ以下でもないんだ。
なんて漏らすと、要はそれが違うと言って来る。
「出来ない事出来ないのは当たり前じゃん。千草が凄いのは、自分が出来る事をちゃんと把握してて、それをしっかり役立てようとしてることだよ。案外それって出来ないよ?だって面倒だし、疲れるし、他の人がやってくれるって思うもん」
「私だって面倒だとは思うが……」
「でもやるじゃん。めんどくさいめんどくさい言いながらでもやるだけ凄いよ。光さんは、千草のそういうところを評価してるんじゃないの?」
言われてみれば、お義母様が私を褒める時は私が何か細々としたことを手伝っている時だったり、何かに気付いてそれを指摘した時だったように思う。
元々とにかく褒める人で、ちょっとのことで過剰に褒めちぎるような人だったからなんにでも褒めているように思っていたけどそうじゃないのか。いや、そもそもお義母様が何も考えずに何かをするわけがない。
何か考えがあって、それを実践するような人だ。計算づくの何かが無くちゃそもそもあの人は動かない。
「それにそれに〜、彼氏さんだってそういうところが好きで千草と付き合ってるんじゃない?」
「い、今は私の彼氏は関係ないだろ」
「あるよ。だって千草を好きになってくれたってことは千草の良いところをバッチリ見つけて、それを魅力に感じたってことでしょ?千草もそれを指摘してもらえたのが嬉しくてOK出したんでしょ?」
「それは、まぁ、確かに……」
私の彼氏、五代 幸祐さんもまた、ものすごい勢いで褒めちぎって来る人だ。
普段は物静かな人なんだが、私を見ると満面の笑みで歩み寄ってきてはその日の私の第一印象の良いところや、剣道の試合での凄いと感じたポイントをこれでもかとあげてくるのだ。
最初は訝しんだものだが、途中から幸祐さんが非常に実直で思ったことを口にして伝えるようなタイプの人だと分かってからは自然と距離は縮まった。
とは言え、それはもう分かりやすくグイグイ来るので実は剣道をやってるこの辺りの同年代では割と有名な話になってしまっていたらしい。
まぁ、ガタイの良い幸祐さんがニコニコ笑って女子のもとに向かったともなれば流石に目立つ。
そのうえ、普段は物静かでどちらかと言えば強面、そんな人が表情を変えてとなると、私からしても好意を持って貰えてるというのはすぐに分かったものだ。




