友チョコお泊り会
碧ちゃん、紫ちゃん、朱莉の三人の話を聞き終わった頃には夕飯は全員食べ終え、またリビングに戻って小休止。
今は美弥子さん達にお茶を入れてもらっているところだ。
「皆色んな理由があるんだね~」
「案外私達はばらけてる方ね。私達の前に魔法庁支部に所属してた魔法少女の先輩たちは大体がお金と復讐だったわね」
「魔法少女のデフォルトみてぇなもんだからな。綺麗な理由でやってる奴も気が付いたらってのもよく聞くぜ」
そもそもが血なまぐさい話なので、魔法少女周りの話はどうしても物騒になりやすい。私達の間で恋バナとか女子らしい話が盛り上がらないのはそういう理由もあると思う。
普通の子と話す時はそうでもないと思うから、私達の関係ってやっぱり友達よりも仕事仲間とかそういうのが強いのかな。
「こうして聞くとボクの理由って随分ちっぽけに思っちゃいますね。ボクは皆に憧れて魔法少女になった感じっすから」
「墨亜も、千草おねえちゃんがやってるから始めたから……」
「あら、良いじゃない。私だって憧れみたいなものよ?」
「それで良いんだよ。逆にそれで続いてるんだから、二人とって大事なのは始めた理由じゃなくて続けてる理由の方じゃない?」
立派な理由や、らしい理由を持ってない二人が申し訳なさそうにしているけれど、むしろ二人のようなタイプこそ凄いと思う。
誰に教えられたわけでもなく、自分で選択した魔法少女という危険な仕事を逃げ出さずに今まで続けているのだから。
それを否定的にとらえることはない。むしろ胸をはって欲しい。きっと、二人は私達の中で最も純粋な気持ちで魔法少女になった人だもん。
「そういえば真白が魔法少女になった理由を聞いてなかったな」
「言われてみればそうですね。ずっと聞こうと思っていたんですけど、忙しくて中々機会が無かったですから」
確かに千草と紫ちゃんの言う通り私が魔法少女になった理由って皆に喋ったことが無いかも。年末までバタバタしてて、最近ようやく落ち着いていられる時間が多くなって来たからね。
それだけ【ノーブル】が力を蓄えているという事だと考えた方が良いんだけど、その間に私達だって訓練を欠かさず、各々が力量をあげている。
一方的にやられているなんて事が無いように気を引き締めないと。そういう意味でもこのタイミングで皆に伝えるのもアリかな。
「私が魔法少女になった理由、続けてる理由も今も変わらないよ」
少し離れたところで人間体になってコーヒーを飲んでいるパッシオを手招きで呼びながら、私は頭の中で言葉を練る。
この話をするならパッシオを抜きで話すわけにはいかない。これは私だけの目標じゃない。『私とパッシオ』の二人の目標だからね。
「私の、ううん。私が魔法少女になって、パッシィと一緒に戦い続ける理由はたった一つ。私達は『魔法少女を無くしたい』」
妖精体、その中でも戦う時の大きさになったパッシオの頭を撫でて、私は答える。それを聞いて、リビングにいた皆は全員口を噤んだ。
魔法少女を無くす、という内容がどういう意味なのかそれぞれが頭を捻っているようにも思うし、次の言葉を待っているようにも思う。
「魔法少女を、無くす?」
「そう、僕と真白が共に掲げた目標だ。僕は、妖精が招いてしまったこの世界の今の惨状を妖精として解決しなくてはならないと思っている」
「そして、私は人として、人を一人でも多く救いたい。それと同時に、今の魔法『少女』が当たり前のように戦わざるを得ない状況を変えたいと思ってる」
これが一番最初に私が疑問視したことであって、パッシオが妖精として為さなきゃならないと決めている目標。
夢物語と笑われても、私達はそれを為すために戦い続ける。【ノーブル】との戦いが終わってもだ。
【ノーブル】と戦っているのは今まさに世界に害ある行為を行っているからだ。私達にとって、【ノーブル】との戦いは通過点でしかない。
「方法も何もまだわからない。どうすれば魔法少女が戦わなくて済む世界になるのか、この世界が以前みたいな、少なくとも魔獣という人類の脅威をどうやれば取り除くことが出来るのか」
「途方が無いと言われてもやると決めたからね。それが僕と真白が魔法少女と妖精としてこれから先ずっと戦い続ける理由だよ」
その結果、私達の生涯が戦いに塗れたものになっても、それで救われる命があるのなら、それで世界を変えられるのなら安い。そんなものくれてやる。
「だから私はまず、『魔法少女を守る魔法少女』になったの。誰かのために戦う魔法少女が理不尽に傷つかないように」
「そして、僕はそれを守ると決めた。妖精として、共に戦ってくれると言ってくれた真白を僕は命を賭けて守るよ」
誰かが息を飲むような音が聞こえる。一般的な思考回路の人から見れば、私達は一種の破滅主義に見えるのかも知れない。
それでもやる。たとえそれが人の道を外れているのだとしても。私はこの手で救える人を救うんだ。もう二度と、救えたはずの命を見捨てるなんて真似はしたくないから。
そう決意を改める私の瞼の裏には、いつか見た焼け焦げた小さな村の景色が浮かんでいた。
あの時、助けてと伸ばされた手を、その手を掴むことが出来なかった事を私は忘れちゃいけないんだ。




