路地裏の攻防
「……で、アリウムフルールにこれを持ってここに行くようにって言われたのね」
「はい、そうです雛森さん!!」
元気よく返事をする地元の中学校の制服に身を包んだ少女に、私は椅子から崩れ落ちる様に脱力したい気分だった
彼女が持って来たのは、アリウムフルールが私達魔法庁宛に書いた紹介状と、この少女の近辺で起こった出来事とその実行犯の情報が記載された手紙だった
ボールペンで書かれているその手紙は女の子らしい少し丸みを帯びた字体ながらも、とても綺麗な字だ。内容もしっかりしていて、伝えるべき情報と、この手紙を彼女に持たせた理由、そして私達魔法庁に依頼したいこの少女の保護と実行犯への調査
これらが簡潔にまとめられている。大人でもこうまで書ける人は中々いないと思う
「ここまで徹底して私達に近付かないなんて……。いよいよ強引にでも接触を試みた方が良いのかしら」
初めての向こうからの能動的な接触がまさかの手紙。当然の如く住所の記載なんてない
彼女がその場で書いて、目の前の少女へと手渡し、この魔法庁支部近くまで案内したのだと言う
そこまで来たのならそのまま直接情報のやり取りをした方が良いのに、あえてそれを避けて手紙と言うアナログな方法で伝達してくる辺りが彼女の警戒心を如実に示している
やっぱり、大人への不信感という線は大きく有りそうだ。でなければここまでして避ける理由が分からない
「それで、私はどうすれば良いんですか?」
「あぁっと、そうだったわね。一先ず、貴女のご両親も交えたお話になるから、連絡を取ってもらってもいいかしら」
「わっかりました!!パパとママに電話してきます!!」
ピューっと元気に部屋を飛び出した彼女は、廊下で大きな声でご両親に連絡を始めていた。元気ねぇ、あの子
さて、彼女のご両親との話を準備しないといけないし、今回の件の情報を上にも下にも伝えなくちゃならない。アリウムちゃんとの接触方法も考えなきゃだし、やることはいつも通り山積みだ
「……そういえば、この字の書き方、何処かで見たことがあるような」
ぼんやりとアリウムが書いた手紙を見ながら、私はそう思ったけど字なんて綺麗に書けばどれもそれなりに似通って来るし、多分気のせいだと思う
当ても無いのに筆跡鑑定なんて頼めないしね
隠れの魔法少女を魔法庁支部まで送り届けた俺は、改めて帰宅の途についてようやく自宅のアパートへと帰り着いた
「お帰り真白。お疲れのところ悪いんだけど、君が接触した魔力に関して詳しい話を聞いてもいいかい?」
「ただいまパッシオ。俺もその件について色々話すことがあるんだ。ちょっと待ってろ、飲み物だけ用意するから」
帰宅早々、駆け寄って来たパッシオとあの男三人組についての意見交換会だ
どうやらパッシオも魔力探知で何者かが俺と、もう一人の隠れ魔法少女に接触したことは分かっていたようだ。それなら話は早い
「とりあえず、俺の方の出来事を説明する。最初は偶然魔力を探知したことから始まったんだけど――」
10分程度の時間で、俺が何と遭遇したのかを説明し終えて、俺は一旦用意した麦茶に手を伸ばす。冷えた麦茶が美味いのは夏の特権だと思う
なんてどうでも良いことを頭に浮かべていると、考え込んでいたパッシオが顔を上げて何だか納得いかないようなしかめっ面をしている
「真白、君が接触したのは間違いなく人間の男、なんだよね?」
「あぁ、少なくとも人型ってのは確定だ。背格好から見ても、一般的な人間の男と見て良いと思う」
「だとしたらおかしいんだ」
「おかしい?」
おかしいとはなんだ。確かに人間の男が魔力を使っている時点でおかしいが、パッシオが言っているのはどうやらそういうことでは無いらしい
一体、何がおかしいんだ?
「僕が感知したのは、人間の魔力じゃない。妖精の魔力だ」