会議を終えて
ラーメンが完成すると車椅子なのに自分で持っていこうとする委員長と千草がまた攻防を始める。是が非でも自分で運びたい委員長と無茶をするなと嗜める千草だ。
案外委員長がアグレッシブに身体を張って来るので千草が力づくで止めにかかってる。フィジカルでうちの魔法少女の中でもトップクラスの千草にまだ訓練前の一般人(しかも療養中)がタメを張らないで欲しい。どこからその体幹の強さが来ているのか。
「お嬢さん。あまり人を困らせるのは感心しないな」
「うえ?わっ!!イケメンだ!!」
テンションの切り替えも上下も激し過ぎる。委員長ってこんなキャラだったっけか。なんかネジ外れてない?
騒ぐ二人の後ろから手を伸ばして委員長が注文したラーメンを片手で持ったパッシオを見て、委員長の興味はパッシオに移ったらしい。黄色い声を上げられて鼻の下を伸ばすバカの腕をつねっておくのを忘れない。
「いだだだ。危ないからつねらないでよ」
「誰彼構わず色目を使うおバカが悪い」
抱っこされてようがラーメンを片手に持っていようが関係ない。どうせ大して痛くもないだろうし、甘んじて受けてほしい。
なんてことをやっているとこちらを見ていた委員長の目がやたらと輝いている。さっきよりワクワクした視線で見つめられても困るというかどうしたんだろうか。
ジッと見つめ返してみると耐えきれないといった様子で私とパッシオを指さして。
「真白ちゃんの彼氏?!」
「ハイ?」
「違う」
「んなわけあって堪るか」
なんて発言をするんですかねこの子は。パッシオは首を傾げて、私は即行で否定して、千草が心底面白く無さそうな顔をして否定する。
後ろでは話を聞いてた朱莉達が爆笑している。いや、パッシオが彼氏は無い。無い。絶対ない。
彼氏にするならもっと身持ちが堅い人が良い。女の子に優しくして勘違いさせるのが特技みたいな男の彼女とか絶対ヤダ。
「あれ、今僕めっちゃ不名誉なこと思われてない?」
「思われてるから安心して」
「ちょっとは否定してほしかったかな?!」
だったらその尻の軽さをなんとかしてほしい。光さんから悪評は聞いているぞ。困ってる女性スタッフに優しくしては食事に誘われてることも多いそうじゃない。
良いご身分ですね。なんかイライラしてきた。
パッシオの事を考えてたらイライラして来たので早くテーブルに向かうように指示する。ラーメンもうどんも伸びちゃうし冷めちゃう。出来たてが美味しいんだから早く食べたい。
「で、真白ちゃんの彼氏さんじゃなかったら誰なの?真白ちゃんが触れる男の人なんて私知らないし」
「パッシオだよ。パッシオ。細かい部分は後で説明するけど、私のボディーガード兼相棒。魔法少女を始めた時からずっと一緒に戦ってるの」
私とパッシオの間柄を簡単に説明すると、委員長はへーと言ってラーメンをはふはふと息を吹きかけて割り箸を使ってせっせと口の中に運ぶ。因みに割り箸という存在も知らなかったので舞ちゃんが教えていた。
やっぱり啜るのも出来ないから忙しそうにお箸を動かしている。
「……ん?パッシオ?パッシオってあのパッシオ君?」
「うん、ワンテンポ遅いね?そのパッシオだよ。ほら、見せてあげて」
私もきつねうどんを啜りながら答える。後で七味を足そう。
委員長は話半分というか、集中力と好奇心があっちこっちに行ったり来たりしているせいで忙しない。委員長にとっては物珍しい物ばかりだしね。
自分で頼んでいたハンバーグ定食を持って来て、私の隣の席に座ったパッシオにいつもの姿を見せるように言うとぽんっと音を立ててフェレットっぽいいつもの姿に戻る。
すぐに人間体にまた姿を変えると自慢げに笑ってどう?と言っている辺りがやっぱり根っからのお調子者だと思う。
「どうも、一応初めまして。僕の名前はパッシオーネ・ノブル・グラナーデ。長いからパッシオって呼んでもらってるよ。よろしくね雛菊さん」
「ご、ご丁寧にありがとうございます」
パチンっとウィンクまで決めて改めての自己紹介をしたパッシオに私は呆れ、千草が凄い顔で睨みつけてる。
まぁ、委員長に何かしようものならしばらくケージ生活をしてもらうけどね。流石にその辺の線引きは分かっていると思いたい。
ホント、なんでこう変にカッコつけたがるかな私の相棒は。横からジトっと睨んでおくと不思議そうに首を傾げられた後に頭を撫でられた。誤魔化すんじゃないよ。




