ノーブル対策会議
「魔取りの見解はどうかしら?」
「魔取りとしては恐らく使い勝手の良い駒だろうと予測しているみたいです。最初に大きな餌、恐らくSlot Absorberやメモリーといった未知で強力な技術を餌に情報を引き抜かせていた、といったとこではないでしょうか」
魔取りのその見解には同意だ。協力者、と元支部長は主張しているようだけど、その実態は【ノーブル】の深い部分に関りを持たせない事で、いざという時すぐに切り捨てられるように出来る都合のいい人員とされていたのだろう。
「典型的なトカゲの尻尾切り要員ね。あのデブ、引き際と逃げ足だけは立派だと思ってたけど目が眩んだのかしら」
「元から眩みっぱなしだろ」
「ちげぇねぇ」
魔取りの意見は魔法少女達側からも賛同を得ている。ただし、辛口の批評付きで。元支部長が平時からどれだけ嫌われていたのか改めてよく分かる。
それでも何とか魔法庁支部として運営出来ていたのは雛森さんを始めとした職員の人達の尽力があってこそだったのだろうね。
どうりで魔法庁支部から引き抜かれた職員さん達が大喜びしているわけだ。設備も仕事の量も効率もまるで違うだろうから。
「Slot Absorberは与えられていたようですがメモリーが空でした。ウィスティー等から上がっていた報告では使用をしていた、とのことですが……」
「メモリーは既に空、と」
「メモリー内の魔力に限界があるのか?」
「そうは思えないっすけどね……。もうみんなは何回も使ってるじゃないっすか」
元支部長はSlot Absorberを持っていた、ということだけど持っていたメモリーは空っぽだった。
空っぽのメモリーじゃSlot Absorberが動かない事は私達も分かっている。でも元支部長がウィスティーさんやアルシェさんと戦った時、メモリーを使ったという報告がある。資料を見ると『Wind(風)』のメモリーを使ったと書いてある。
千草や舞ちゃんの言う通り、私達の使っているメモリーはここまで一度も空っぽになったことは無い。この差は何なのか、それを考えてみる。
「そういや連中がメモリーを使う時に、ウチらが使う時とは違う音が鳴るよな」
「とぅるーとすぉーど?だっけ」
「トゥルーとスォード、か……」
トゥルーは恐らくTrue。真実という意味だ。真実のメモリー、或いは本物とか純粋なとも言いかえられる。
これは前にも話題になって、スォードという言葉の方がよく分からないままだった。
調べたけど、結局分からなかった。Trueとくれば普通はFalseだ。こちらは間違った、偽の、等の意味がある。なんだって普通と違うことをするのか、めんどくさい。
スォード、或いはスゥード。多分Falseと同じような意味だとは感じてる。じゃなきゃ真実のなどという単語をわざわざ使わないだろう。それと真逆のモノだから、名称がわざわざ分けるのだろうし。
「あ」
「どうかしたの真白ちゃん?」
「分かりました。多分Pseudoです」
そこでいきなり頭に浮かんだ。該当する単語にピンときた。発音も近いし意味も納得できる。多分これが正解だ。
今まで思いつかなかったくせに、こうして突然思いつくのはあるあるだと思う。特にこうした謎解きみたい場合は。
頭の回路が繋がった、みたいな感覚と言えば良いのか。同時になんで気がつかなかったのかとも思うけど。
「Pseudo?」
「ハイ。擬似や偽の、模造という意味があります。釣りの擬似餌とかの擬似ですね」
Pseudo memory つまり日本語に直訳すると偽の記憶、或いは擬似記憶といった意味になる。
Trueの反対として使われるFalseの場合は偽や人造と言う意味も含むけど、間違いや誤りといった意味も含んでいる。恐らくこの意味にそぐわないから、FalseではなくPseudoを使ったんじゃないかな。
「擬似、模造。つまり本物を精巧に真似た偽物、と言うことね」
「でも偽物は偽物。メモリーの中には本物のTrueと偽物のPseudo がある。でも何故そんな事に……」
新たな問題はそこだ。TrueとPseudo何故2種類あり、何が違うのか。そこを知る事でSlot Absorberとメモリーへの理解が進むだろう。
「その辺りは魔取りからの聴取で分かりそうな部分ね。次に進みましょう」
とりあえず、メモリーの謎については魔取りの聴取を更に待つと良いだろう。話す事はまだまだある。
光さんの進行で私達は一旦ここから離れて、更に報告と情報の整理、共有を行なっていった。




