取り戻した日々
委員長の学校への復帰に関しては思っている以上に早かった。2月の頭に目を覚ましたと思ったら一週間と少しで時間を短くして登校するようになったのだ。
想定しているよりも体力や筋力の低下が少なかったこと、本人が早く学校へ行きたがっていることなどが早期の登校復帰への後押しとなった。
「皆いい?入ってきたら一斉に、だからね」
「任せて」
「ドキドキしてきた。こういうの初めてです」
そんな委員長が復帰する日の朝、私はクラスメイトと一緒に教室の入口を囲むようにして委員長がやって来るのを今か今かと待っていた。
退院やら学校に戻って来れた事をお祝いするためのサプライズを決行しようとクラスメイト達が考えたことだ。
クラスでも中心人物だった委員長を歓迎する試みはクラスメイト全員に伝播してこうして朝早く登校して待ち構えることになったのだ。
私と数名の生徒はクラッカーを持っていて、掛け声に合わせて紐を引くようになっていた。
「いい?真白ちゃん。委員長おかえりー!!って言ってから紐を引っ張るんだからね」
「入ってすぐ引いちゃダメだよ」
「分かってるよ!!もう何回も聞いたって!!」
その数名の生徒からクラッカーを鳴らすタイミングを口を酸っぱくして言われる。
そんなに言わなくたって2回も言われれば私だって理解できるよ子供じゃないんだし。ぶぅと頬を膨らませる私にクラスメイト達は笑って頬をつんつんしながら、でも真白ちゃん天然だしなぁ~と漏らす。天然じゃないです~~~。
「来た来た来た!!皆スタンバって!!」
連絡役のクラスメイトがダッシュで戻って来て、ざわついていた皆が一斉に静かになる。サプライズだから驚かせないとね。
委員長を迎えに行った千草がボロを出してなかったら大丈夫だ。
そしてガラガラと教室のドアが音を立てて開かれ、車いすに座った委員長とそれを押す千草の姿が現れる。
「「「委員長!!おかえ――」」」
皆が声を揃えて委員長お帰り!!と言ってる最中、パンっと音が鳴って紙テープと紙吹雪が宙に舞う。
私の手に中が空になったクラッカーが握られていて、クラスメイト達の視線が一気に集まっていた。
「……えへっ☆」
うん、やった。
「やっぱり真白ちゃんは真白ちゃんだわ」
「まさか見事なフラグ回収をするとは」
「ごめんなさい!!」
可愛く誤魔化しても、見事にクラッカーを鳴らすタイミングを間違えた私にクラスメイト達にくすぐりの刑に執行後、私は委員長の膝の上でぬいぐるみよろしく独占されている。
首からは段ボールを切って作った『私はクラッカーを鳴らすタイミングを間違えてサプライズを失敗させました』のカードがぶら下げられている。恥ずかしい。でも委員長が大笑いしてたから許してほしい。
先生方も私が授業中でも委員長の膝の上にいることと、カードを首から下げていることに気付くけど、ひと笑いしてから当たり前のように授業を始める始末だ。
そう言うところ緩いんだよねこの学校。
「このおっちょこちょいめ~」
「ほめんなはぁい」
クラスメイト達にかわるがわるほっぺをムニられ笑われる。
いやね、委員長が来た!!と思って手に力を入れちゃって、その拍子に引っ張っちゃったみたいなんだよね。ホントごめん。
「ホント真白ちゃんはブレないね〜」
「最初から考えるとブレブレな気もするけどな。すっかりマスコットだぜ」
美海ちゃんと優妃ちゃんにも両サイドからほっぺをぷにぷにとされながら私は委員長に頭を撫でられている。
もはや愛されペット状態だけど、ここでは日常的な光景なので私はされるがままだ。抵抗してもすぐに捕まる上に疲れるし、撫でられるのは嫌いじゃない。
「私がいない間にすっかり馴染んだね。安心した」
「人目にも滅多にビビらなくなったな。たまに他のクラスの連中に囲まれて困ってるくらいか?」
「そう言う時は私が出て行けば大体解決するしな」
委員長がおおよそ4ヶ月と半分くらい。その間に私はだいぶ人に慣れて、普通の生活に少しずつ戻れるようになっている事は、以前の朱莉との買い物でも実感が出来ていた事だ。
その成果は学校生活でも出ていて、前まではどこに行くにも千草か、クラスメイトが付いていたのだけど、最近はトイレくらいなら1人で行く事も多い。
ま、結局みんなで行く事にいつもなるんだけどね。
「そう言えばパッシオ君だっけ?あの子は連れて来てないの?」
「いるよ。パッシィ!!」
「きゅいっ!!」
最近は職員室に預けるより、教室の中にいることが多い。専用のケージも用意してあって、さながらクラスで飼ってるペットだ。
授業中も大人しくしていることや、私が忘れて帰る事が頻発したのが主な原因だったりする。
いやホント申し訳ない。
目の届かないとこにいさせるのも問題だというのは千草とも話し合いの末の同意でもある。
最近、千草はパッシオに当たり強めだしねぇ。




