取り戻した日々
涙目になって脛を撫でる千草の事を置いてけぼりにして、今度はノンちゃんの新しい住まいへと足を向ける。
郊外の公園に作られた専用の公園は、ノンちゃんが泳いだり、日向ぼっこをしたり、自然の果物を食べたりなど好き放題に暮らせるようになっている。
「マジで置いてかれるところだった」
「マジで置いていくつもりだった」
「だったー」
田所さんが車を出す寸前で猛ダッシュして来た千草を回収して、車はその郊外の公園へと走り出す。
以前は街が管理する公園だったのは何回も言っていることだけど、今は『魔法少女協会』が管理保有する地域に変わっているらしい。流石というか手回しが早いというか。
確かに魔獣を飼うとなると、街の管理でやるには手に余るだろうし、そうなるのは必然なんだろうけどね。
「ノンちゃん元気かなー」
「元気だろうさ。この前行った時も呑気にしてたしな。あの分だと、お義母様が計画している一般公開も割とすぐなんじゃないか?」
そんな『魔法少女協会』の管理区域となったノンちゃんの住まいについて、光さんは一つの計画を立てている。
それは千草の言う通り、ノンちゃんの暮らしぶりを一般の人達に公開しようという計画らしい。
元より、ノンちゃんの食費に関してはこの街の飲食店業の方々などにご協力をお願いして、野菜クズなどを提供してもらっている。それだけでもありがたいのだけど、ノンちゃんの住まいである地域の封鎖に使ったお金やら何やら、今後の維持費も含めお金は必要だ。
いくらスポンサーが多くついているとは言え、今後どうなるのか分からない以上はノンちゃんの飼育維持費くらいは出来るだけ安く抑えたい、というのが経営をする光さんをはじめとした大人達の本音だ。
そこで、既にパレードで人を襲うような凶暴な魔獣でない事をある程度知られているノンちゃんをかつてあった動物園のように観察などを出来るようにすることで、その入場料を回収しようという案があるらしいのだ。
実際に私が聞いたわけではないけれど千草の耳などには入っているらしく、嘘かホントか、今後やるのかはともかくとしても、まぁ現実的に可能そうな話としてはアリなのかなとも思う。
魔獣に関する研究施設も併設されているらしいし、兎にも角にもノンちゃんは今、この街で一番話題になっていることの一つであることは間違いない。
「奥様も良くお考えになられますね。ニュースでは街の外縁をパトロールする姿が報じられて話題になっていましたよ」
「あれには私達も驚きました。人と魔獣の共存、そのいいモデルケースになってくれそうです」
運転をする田所さんの言う通り、そのノンちゃんの話題の一つに、街を内と外の境目を一日に二度ほど、パトロールをするようにぐるりと一周する行動が見られたことだ。
最初は脱走でもしたのかと思ったのだけど、のんびりと散歩でもするかのように街をぐるっと一周して戻ってきたのを何回か見ていたのと、パッシオの通訳により本人からも街のパトロール。
正確には他の魔獣に対して、ここは自分の縄張りだと主張してもらうことで、特に雑魚魔獣が寄り付かないようにしてくれているらしい。
そうすると、ノンちゃんはかなり強い魔獣ということが窺える。
確かに、水棲の亀は池や川の食物連鎖の頂点に位置する最強の淡水生物の一角。魔獣化して、陸上にも適応したともなれば、その堅い外殻と巨躯だけで、並みの魔獣は怖じ気づくに違いない。
「まさかこうも好意的な魔獣だとはな」
「だから墨亜言ったよ。ノンちゃんは良い子だって」
「まぁな。確かに悪い奴ではないよ」
最初はどちらかと言うと否定的立場を暗に示していた千草も、約一か月のノンちゃんの生活ぶりに考えを改めざるを得なくなっている。
同じく否定的だった朱莉は約一週間で手のひらを翻して、今では紫ちゃんと合わせてせっせと世話をしているらしい。
時折相手をしてもらえなくていじけたリオ君が諸星のお屋敷にやって来るのも、慣れて来た。
「委員長にも見せてあげたいね。きっと喜ぶよ」
「確かに。要はそういうの好きそうだしなぁ」
委員長もそうだけど、女子高生となるとお嬢様言えども時事ネタ、その時の流行の食べ物や洋服、話題には敏感でミーハーだ。
ノンちゃんの話題も病室にいるけど聞いているだろうし、連れてきてあげたら喜ぶと思う。
一般公開が出来るようになったとしたら、クラスメイトと一緒に来るのもいいかも知れない。何かと楽しみが増えているから早くそうなると良いなぁ。




