ペットな魔獣
ノンちゃんの大きな頭の上で墨亜を膝に抱えながら練習場での激しい特訓を見学する私達。ノンちゃんも興味津々といった様子でじっと3人の様子を眺めている。
「お姉ちゃんたち凄いね」
「ね」
私も墨亜も、特に最後方からの狙撃をメインとする墨亜の戦い方ではこういった激しいやり取りは無い。
私はロゼになったりすると近距離戦もやるけれど、二人みたいな強力な斬撃や打撃では無くて、燃える障壁での魔法的な攻撃が中心。私のただのキックでは魔獣にも大したダメージは見込めない。
基本的な身体スペックが足りてないのが主な原因。ま、これは前から言ってることだけどね。ハッキリ言って、アリウムフルールのスペック自体がそもそも戦うことに向いてないのに、障壁魔法を応用して無理矢理戦ってるだけだから。
「凄いなぁ。憧れちゃう」
「カッコいい~」
直接戦う手段に乏しい、真正面から困難を打ち破るだけの高い戦闘能力は正直に言って羨ましい。自分で切り開く力が強いということは、多くの人の命を迅速に危険から遠ざけられるからね。
こんなことを言っても無い物強請りなのは百も承知。現実的に考えてというか、私自身の気質というか、やりたい事やって来た事を考えると障壁と治癒魔法に特化したアリウムフルールは当然の結果、或いは今までの経験を活かせるありがたい事なんだけど。
「わ、凄いよ真白お姉ちゃん」
「どれどれ。え、クルボレレちゃんが何人もいる」
ちょっと物思いに耽って、練習場の中から意識が反れていると膝の上に座っている墨亜が服を引っ張りながら声をかけて来る。
言われたとおりに練習場の中に視線をまた向けると、なんとクルボレレちゃんが5人いるではないか。ほんの少し目を離したすきに一体何が起こっていたのか。
「……へぇ、面白いことするわね」
「行くっすよ」
目を細めて笑うウィスティーさんが感心したように口にすると、5人いるクルボレレちゃんが一斉に動き出す。
突撃したり一斉に飛びかかったり、様子を伺ったり、それぞれが別なことをしながら波状攻撃を仕掛けていく。
「フェイントからの発想で面白い事を考えるわね!!」
それでもその波状攻撃を一人で捌き切るウィスティーさんは流石だ。斧槍を振り回して、分身を次々と破壊する。
それでもめげずに次々と分身を繰り出すクルボレレちゃん。本体がどこにいるかは私にも分からない。
「おりゃりゃりゃ!!」
攻撃を繰り返すクルボレレちゃんだけど、数で押してもウィスティーさんには効果が薄い。元々なれない事をしながらなのか、クルボレレちゃんの息はあっという間に上がっていた。
やがて分身を作り出すだけの余裕がなくなったのか、膝をついて、肩で息をするクルボレレちゃんが離れたところに現れた。
「ここまでのようね」
「……」
チェックメイト、ということだとのつもりなのかウィスティーさんが斧槍を立てて仁王立ちをする。
訓練はこれで終わりなのか、そういう雰囲気になったところでクルボレレちゃんはニヤリと笑った。
「バトンタッチっすよ」
「準備オッケーよ」
そう言って現れたのはルビー。火の粉を伴って現れた彼女の登場と共に周囲が灼炎に包まれ。
「ぎゃっ?!」
「わあぁっ!?」
私達とノンちゃんは大慌てで窓から離れることになるのだった。
あのバカ、出来立ての練習場を燃やす気か。
窓から漏れた熱気に驚いて離れた私達は火傷が無いかチェックし、特にケガが無い事にほっとしながら、改めて練習場の窓から中を覗き込む。
「うんっ、二人とも合格!!」
「よしっ!!」
「やったっす!!」
中では満足そうなウィスティーさんと、はしゃぐルビーとクルボレレちゃんの姿がある。こっちは何のことやらさっぱりだ。
何か試験的なことでもやっていたのだろうか。
「お前らーっ!!!!」
そうやってはしゃぐ3人の下に、鬼の形相をした明依さんが飛んでやって来たのは二分くらい経ってからの事であった。




