路地裏の攻防
30分程度の面会をした後、俺はまたねと言って病室を後にする
いくら個室とは言え、長時間の面会は意外と体力を使うもの。あまり長居するのは朱莉ちゃんのためにもよろしく無い
代わりに、また果物を買って来る約束をしたのでまた頃合いを見計らってお見舞いに来よう
「さて、昼飯はどうするかな」
午後からの面会時間を利用して来たが、ここまでの移動時間の関係で昼食はまだだ
パッシオの方は作り置きしたおかずを用意してあるから大丈夫だが、俺の方は腹もペコペコ
車で真っ直ぐ来られれば30分とかからないのだが、前にも言った通り俺は自家用車は持っていない。だから徒歩と公共の交通機関を利用するのだが、待ち時間や経路の都合上、1時間半程度はかかる
都会にいればこんな不便は早々無いのだが、生憎ここは多少は発展してる程度の東北の街
そんなところの公共交通機関なんてのはそんなものだ。最近の発展と言えば、バスでもICカードが使えるようになったくらいか
という訳で、今の時刻は14時。帰った頃には16時前になるだろう。流石に待ってられないから、今日は久々の外食だ
「たまにはラーメンなんても良いよなあ」
ラーメンならこの辺りならやっぱ醤油だけど、最近はコッテリ系の店も増えて来たしちょっとそう言うところ探してみるかと、俺は炎天下の中スマホで店探しをしながら歩き始めた
「ふー、食った食った。やっぱラーメンは美味いな」
久々に食べたラーメンは美味いかった。やっぱりこの国のソウルフードの一つだと思う
今回食ったのは脂多めのコッテリ系。あっさりな醤油系が中心のこの辺りじゃ中々見ない味だったけど、都会の方での流行りだとか
ただあのドカ盛りな、あれはラーメンなのか……?あれは食えないと思った。どう考えても俺の胃袋には収まらない。物理的に容量が足りない
そんな事を頭に浮かべていると、ピシリと身体を何かが奔った
「……魔力?」
身に覚えのある感覚。俺自身もその身に内包している魔力の感覚を、何処からか感じる
パッシオが身近にいなくても良いようにと、パッシオ指導の下に魔力探知の練習を続けて来た成果が出たと喜んではいられない
魔力反応があるという事は、魔法少女か魔獣、或いはその両方が現れたという事
「んーーーー?あっち、か?」
まだ練習中の中途半端な探知じゃ何となくの方向しか分からないが、向かう価値はあるはず。もし、また魔獣が街中に現れているならとんでもないことだ
多分、何となくと言う心もとない感覚を頼りに、俺は足早にその方向へと向かうことにした
やって来たのは繁華街の裏路地に当たる地域だ。ただ、魔獣に襲われているような雰囲気は無く、一本隣の大通りはいたって変わらない人と車の往来がある
「魔獣じゃない……?なら、魔法少女か?」
何かが暴れているような気配もなく、路地裏はエアコンの室外機とごちゃごちゃとした配線や雑多な物で溢れている
仮に魔獣じゃないとしても、魔法少女がいるとも思えない場所。だが、俺の感覚では確かにこの周辺に魔力を放っている何かがあると感じ取っている
「念には念を入れるか。『チェンジ、フルール・フローレ』」
人気の少ない路地裏、と言うだけであまり良い感じはしない。どちらかと言えばこういったところはアウトローな人間が集まっているイメージの方が強い
それが間違っているならそれはそれで良し。笑い話で済むだけだ
問題はそれが正解だった場合、良いことは起きないのは確定的。ここは用心に越したことは無い
そう考え、俺は静かにアリウムフルールの姿へと変身し、その純白の衣装が似合わない路地裏へと足を踏み入れることにした