ペットな魔獣
のんびりと『魔法少女協会』の敷地内をノンちゃんの背中に乗って進んでいるとまだ世間はお正月休みの中だというのに慌ただしくする職員さん達から手を振られる。
手を振り返すと面白そうに笑ってまたお仕事に戻っていく。本当はもっと時間をかけて魔法庁支部から『魔法少女協会』へと移行していくはずだったのが、元支部長が【ノーブル】との関りが判明して現在、魔取りに身柄を拘束されるというあの騒ぎのせいで色んなものが前倒しになった結果、皺寄せが職員さん達に行っている。
勿論、光さんも大忙しだけれど、いくら光さんと言えども出来ることはあくまで個人の範囲。あの人が凄まじいのは人心掌握の能力と人を使う能力がバカげたレベルなので、使われる側の職員さん達はそれはもう大変だ。
「ママ達、お仕事大変そうだもんね」
「そうだね。良い子にしてないとね」
「うんっ」
へとへとになって帰って来る光さんを何回も見ている私や墨亜はせめて光さんの邪魔にならないようにするだけだ。
良い子でいることが私達が光さんに負担をこれ以上増やさないための最善。そう思いながら、それでも頼らなきゃいけない事も多くて申し訳なく思う。
それを伝えたら揉みくちゃにされたけど。なんで。
「あら、貴女達随分楽しそうなことしてるのね。ケガだけはしないでよ」
「あ、明依さんこんにちは。落ちないように気を付けますね」
「こんにちはー!!」
ノンちゃんの気の向くまま、広い敷地内を散策しているとたまたま移動途中だったっぽい明依さんに出会う。
最初は印象の悪かった明依さんだけど、光さん達に一芝居うつように頼まれてああしたと分かって以来は関係はそれなりに良好だ。ごめんなさいって謝られたしね。
私も気付かないで顔思いっきり蹴っちゃったし、逆に申し訳ない事をしたと思う。ケガはあの後すぐに治療して、今はすっかり完治しているはずだ。
「ホント、貴女達全員個性が強いわよね。そのくせ、戦いになるとあり得ないほど完璧な連携するんだから」
「えへへ、それが私達の強みですから」
「墨亜達みんなでなら誰にも負けないよ!!」
まだまだお互いの事を知らないけど、明依さんの私達に対する評価はアクの強い個性派ぞろい、らしい。
ま、その自覚は勿論ある。全員が全員同じ方向を向いているのかと言われると実はあまりそうではない。
今は共通の敵がいるから一緒に戦っているだけで、案外【ノーブル】との戦いが終わったらそれぞれがやりたい事をし始めるんじゃないかな。
仲良しだからって言ってずっと一緒にいる訳じゃないしね。
「それは痛いほど分かったわよ。そういえば、貴女達も後で練習場は使う?今はえーっと、ウィスティーがルビーとクルボレレを指導するのに使ってたわね」
「はい、私達も後で向かいます。あ、フェイツェイは別行動ですね」
「聞いてるわ。あの子も熱心よね、空港所属の魔法少女に空中での戦い方を学びに行くなんて。ま、了解。練習場の使い方を教えるから、来るときは連絡してね。じゃ」
軽いやり取りをした後、明依さんは眼鏡を位置を直した後、颯爽と髪を翻し、ヒールをカツカツと鳴らして本部ビルの中へと入っていく。
光さんや雛森さんとは別のタイプのバリバリのキャリアウーマンだなぁと思う。
光さんがやり手の女社長なら、明依さんは営業マンって感じかなぁ。雛森さんは、まぁ本人が聞いたら凹むと思うんだけど、社畜、かなぁ。
雛森さんに心の中で謝りつつ、また歩き出したノンちゃんに揺らされて私と墨亜はまたのんびりと敷地内の探索を再開する。
「次はどこ行く?」
「ノンちゃん次第だね。行ってないところをぐるって回ってるのかな?」
というか、パッシオとか碧ちゃんと紫ちゃんの姿が見えない。三人はどこに行ったんだろう。
爬虫類大好き紫ちゃんならよじ登ってきそうだなって思ってたんだけどな。




