ペットな魔獣
亀の魔獣と子供たちと出会って数日後。三が日も終わり、年末年始の連休ももうそろそろ終わりが見えて来た頃。
私達は先日出会った亀の魔獣の背に乗って、街の大通りをゆっくりと進んでいた。
「お利口ねー。それでこそウチのトレードマーク候補よ」
巨大な甲羅の上に取り付けられたお立ち台で、周囲の見物客に手を振りながら光さんはご満悦の表情だ。
スケールといい、魔獣を手懐けているというアピールにもなり、この街の魔法少女達の改めての顔ぶれ紹介、『魔法少女協会』が公共の場で顔出しする一発目には相当な注目が集まることだろう。
「ノワールの発想には驚きだけど、それ以上にそれを数日で実行する光さんの手腕の方にも驚くわね」
「先日の『魔法少女協会』の設立の件でも分かっただろ?出来る、と思ったらあり得ないほどスピーディーに実行する人なんだ」
「しかも確実に成功させる。そんな人がこれから私達の直属の上司になるんだから、これから大変よ?」
そう伝えると、ルビーはあからさまにうげーっという顔を見せながら、大きくなって隣でお座りしているリオ君の頭を撫でる。
私達も沿道に見に来ているお客さんや、周囲を飛ぶ撮影ドローンに視線や手を振りながらこのパレードが開催される原因になった数日前の出来事を思い出す。
ノワールが思い付いたのは、隠したり人と離したりするのではなく、堂々と衆目の目に晒すことだった。
「私達と仲良くしてるのを見たら、この魔獣は怖くないって分かるでしょ?」
とはノワールの言葉だ。魔獣とは襲い掛かって来るから恐ろしいのであって、そうでないと分かれば、仮に何かが起ころうにも襲い掛かって来られないように管理されているのであれば、恐怖心はだいぶ和らぐことだろう。
魔獣が現れるようになったことで今や見かけることが無くなってしまった動物園と理屈は同じだ。
獰猛な肉食動物でも、しっかり檻に入れて、展示スペースも間違っても襲い掛かることが出来ないような工夫を凝らしておけば、人はライオンだって可愛いと評価することが出来る。
コントロール出来ない、何をするのか分からないから怖いのだ。これは魔獣に限ったことではなく、恐怖という物事全般に言えることだ。
「ホント、良く思い付くわね貴女達は。まさか私が魔獣の背中に乗ってパレードするなんてね」
「あら、嫌なら降りる?」
「意地悪言わないでよ明依。むしろ良い経験よ。人と魔獣は絶対に敵対する必要が無いって身をもって分かったもの。確かに魔獣は今の人類の天敵。でも、中にはこうして仲良く出来る子もいる」
魔獣を目の敵にして来たけど、そうじゃないのよね。とウィスティーさんは漏らす。
世界を我が物顔で歩き回る魔獣だけど、彼らだって元々魔獣として生まれたわけじゃないし生きるために狩りをしているだけだ。
決して、魔獣は悪じゃない。ましてや魔獣が生まれる原因の魔力が妖精界から流れ込んできているのが原因だと分かった今、魔獣ですら被害者側とも見れる。
人間に襲い掛かって来る魔獣は駆除せざるを得ないけど、そうでないのであれば生活圏を上手く分割していけば共存は可能なはず。
そこは技術と知恵を持つ人間側の努力次第だ。
とはいえ、世の中がどうなるかは分からない。私達は私達に出来ることやアピール出来ることの一つとして、ノワールが思い付いた魔獣を魅せる、という発想に光さんが大々的なアレンジを加えて、このパレードが催されている。
「良かったね、彼女が話の通じるタイプで」
「要求がご飯と寝床なのは笑ったけどな」
「動物と人も現金、ってのはかわらないんっすねー」
因みにパッシオの言う通り、この亀の魔獣は雌らしい。意思疎通が可能ということで、パッシオに通訳と交渉をお願いしたところ、彼女の要望はより快適な寝床と食事の確約だった。
それならばお安い御用と光さんは頷き、当面は新しく出来た『魔法少女協会』のビルの敷地内の一角で居候してもらい、公園の池を改修する方向に決まったのだとか。
なんとも大掛かりな話が続く。街のお偉いさん達にはとっては頭が痛い事だろうと心中お察しをする。まぁ、頑張って仕事してくださいくらいだけど。
「あと意外なのはアメティアが爬虫類好きってことだな」
「ねー。ずっと頭の上にいるものね。特等席にいるのは楽しそう」
そして話題は私達とは少し離れた位置に陣取ってるアメティアへと向く。
アメティアが陣取っているのは亀の魔獣の頭の上だ。人ひとりは余裕でいられるそこに楽しそうに座って手を振っている彼女は何時になくはしゃいでいる。
どうにも、隠れ爬虫類マニアだそうで今回の出会いを一番喜んでいるのはもしかするとアメティアかもしれない。
作者のペットもクサガメ(ゼニガメ)です。名前はカメックス。




