ペットな魔獣
「随分大きな魔獣ね」
「ハイ。ですがとても大人しい子ですね。まだ食べますか?」
私達の連絡を受け、やっていただろう業務を放り投げて来てくれた光さん。そしてその付き添いで来たのか、美弥子さんと数人の使用人の人達が大きな亀の魔獣を眺めていた。
手土産としてなのか、友好を示すためなのか、恐らくクズ野菜などだろう。大きなポリバケツに沢山の餌を入れて持って来た時は何かと思ったけど、この亀の魔獣は大層それがお気に召したようで、もぐもぐと満足するまで食べているようだ。
「僕たちがこの子の飼い主さんかな?」
「うん!!」
「おばさんテレビで見たことある!!あれ、魔法少女のやつで出てた!!」
光さんが視線を合わせて問いかけると、子供たちは無邪気に答える。おばさん、と言われて光さんが若干ショックを受けているようにも見えるけど、子供ってやっぱり正直だからねホラ。
「……カメさん、まじゅうなの?」
「えっ?あー、うん。そうだね、この亀さんは魔獣だよ」
「じゃあ、魔法少女のお姉ちゃんたちはカメさん倒しちゃうの?」
そんな子供たちの一人、ハキハキと光さんと受け答えをしている男の子二人とは別に女の子はそばにいた私の手を引いて、うるうるした目でそう聞いてきた。
女の子はどうにも聡いというか、幼くても勘が鋭い。私達魔法少女や大人たちが根掘り葉掘り聞いている内に、自分たちが世話をしていた亀が魔獣だったことに気が付いてしまったようだ。
それにしても参った。私達は倒すつもりはないけど、周囲がどう判断するかはまた別だ。
未然防止策として、追い出すか駆除してしまうか、これが現実的な選択だろうと思う。
ただ、それを世話をして来たこの子達に伝えるのはとても酷だ。この子達にとって、この亀は大事なペットなのだ。
それを大人の都合でどうこうしてしまうのは、私達には気が引ける行為。
どうにかしてそうならないようにしないといけないけど、さてどうするのが良いのか。
「大丈夫。ウチらが何とかする」
「ホント?」
「ホントっすよ。倒したりしないから安心してほしいっす。今日は危なくないか見に来たんっすから」
不安そうにしている女の子に、アズールがガシガシと頭を撫でながらなんとかすると答える。クルボレレも同じだ。
あまり安請け合いもしたくはないけど、今回ばかりは仕方がないか。ちびっこ達にとって魔法少女は本物のヒーロー。
ヒーローが何とかしなくて誰が何とかするのか。
「実際に何とかするのは大人だけどね」
「ま、なるようになるんじゃない?」
「なると良いがな。とりあえずお義母様の判断を待つか」
不躾な発言をしているパッシオ、ルビー、フェイツェイの頭を順番に障壁でひっ叩いて黙らせて、私もこの亀の魔獣をどうやって可能な限り今まで通りに過ごさせるか頭を働かせるとする。
とにかく、この亀の魔獣にとって人間は襲う対象ではなく、餌をくれる飼い主無いし共存の関係を作る必要がある。それをどうやって納得させるか、食費等の管理維持費もかかるはず。その辺りのお金の出所、考えることは山ほどあるから困りものだ。
「似たような事例が他の街にもないのかしら?」
「無い事は無いようです。海外を含めたいくつかの街では街全体で世話をした魔獣が魔法少女達と協力して襲って来た魔獣を討伐した事例や、ケガをして保護された魔獣が街の周囲の森を縄張りにして、他の魔獣が寄り付かないようにしているなど、魔獣と共存しているケースはいくつかあるそうです」
「なんにせよ特例のケースだな。上手くいけばいいが」
スマホで調べものをしていたアメティアによれば、魔獣と共存した街も無い事はない、とのことだけどフェイツェイの言う通りそれらは特例。
街住人の理解やらなにやら、懸念することは多く、上手くいくかは不透明過ぎる。
「ノワール、良い事思いついた!!」
そんな中、いつの間にか亀の魔獣の背中によじ登っていたノワールが大きな声をあげるのだった。




