ペットな魔獣
「全員ストップ!!」
それぞれが咄嗟に対応しようとした瞬間、パッシオから待ったがかかり寸でのところで皆押し留まる。
緊迫した私達を他所に、のんびりと首を伸ばした亀の魔獣は子供たちの近くまで顔を寄せると、変わらずのんびりとした動作で口を開ける。
「あ!!カメちゃんだ!!今日のご飯持って来たよ!!」
「白菜持って来た!!」
「僕はリンゴ持って来たよ!!」
巨大な亀の魔獣に驚くことなく、笑顔で亀の魔獣を撫でた後に子供たちは背負っているリュックサックから各々持ち寄った食べ物を取り出す。
子供が持ってくる量なので、大した量ではないけれどそれでもそれなりの量はある。
この子達はそれをこの魔獣のご飯だと言うのだ。
「こ、この亀は君たちが世話してるっすか?」
「そうだよ!!幼稚園の遠足で見つけてから、皆でご飯あげてるの!!」
「すっごいおっきくなったでしょ!!」
「背中に乗せたりしてくれるんだよ!!」
驚いた。つまりこの亀の魔獣はこの子達のペット、ということになるのだろうか。
ペットの魔獣化自体はそう珍しくはない。稀によくある、と言えばいいのか。ただ、野生の動物とは違い、ペットとして買われていた動物が魔獣化した場合は比較的人間と友好的、と言うか特に飼い主を守る傾向があるらしい。
少し違うけど、ルビーの飼い猫であるリオ君が良い例だ。今日もルビーが肩から下げているショルダーバックの中で絶賛おねんね中のリオ君もルビーとの使い魔関係にあり、人を襲うことはしない。
勿論、中には不慮の事故が発生してしまう可能性もあるようだけど、ペットとして飼われていた個体は少なくとも人間は餌をくれる友好存在であり、共に生活するパートナーと認識してることが多い、らしい。
特に犬や猫にその傾向があるようだけど、まさか亀もそうだとは。しかも公園の池で餌付けをしている半野生個体だ。驚き以外の何物でもない。
「驚いたな、つまりこの亀の魔獣はこの子達の使い魔、ということになるのか?」
「というか、今までよく見つからなかったもんだぜ。最近魔獣化したのか?」
「と言うか、今冬っすよね?冬眠、しないんっすかね」
驚きと疑問の声が多く上がる中でも、亀の魔獣と子供たちはマイペースで子供たちに手渡された餌をバリバリと音を立てて美味しそうに食べている。
こうしてみると普通のペットだ。大きさ以外はやはり元々はこの子達に餌付けされていた個体なんだろうと思う。とにかく人馴れしている。私達を見ても逃げなかったのは、人を外敵や捕食対象として見ていないからだろう。
「ふう、間に合ってよかった」
「パッシィ、どこで気付いたの?」
「声だよ声。この亀の魔獣、鳴き声はないけど喋れる。意思みたいなのを飛ばしてた。「ご飯」だってさ」
なんとも呑気だ。パッシオの話を聞いて、私達は揃ってがっくりと肩を落とす。この亀の魔獣は私達の事を特に気にしておらず、いつもご飯を持ってきてくれているこの子達が来たから首を伸ばしてご飯をねだっただけ。それだけの事だった。
しかし、それはそれで問題も出てくる。
魔獣はやはり魔獣だ。特に半野生個体であるこの亀の魔獣を人が受け入れてくれるか、という問題がある。それに身体が大き過ぎる。誰かが管理するにしても、それこそこの公園の池のような場所でない限りはとてもじゃないけど飼えない。
少なくとも一般の家庭では無理だ。この亀の魔獣自体が一軒家とほぼ同じサイズと言えば、その無謀さが少しは伝わるかな。
「どうしましょうか……」
「ママに電話してみる?」
「それが良いだろうな」
私達だけじゃ判断しきれない。ここは大人の力を借りるとしよう。そう結論付いた私達は今日も『魔法少女協会』の長として様々なところと調整業務をしているはずの光さんへと電話をするのであった。
光さんも困るだろうなぁ、コレ。




