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母の面影

朱莉ちゃんのお母さん、金本(カネモト) 朱里(シュリ)さんはお茶目さもありながら、母親らしい厳しさも持ち合わせた良い人だな、と言うのが俺が彼女に感じた印象だ


「真白さんは本当に若いですね。ちょっと羨ましいです」


「若いって言うか、顔立ちも身体つきも子供っぽいだけなんですけどね。おかげで初対面の人には高校生か中学生と間違えられます」


これが結構大変なんだと俺が肩を竦めるが、女性からしてみれば若く見られると言うのはそれだけでメリットだ。若ければ若いほど良いと言う訳じゃないと思うけど、若いと言われて喜ばない女性も早々いないと思う


対して男は見た目が若いと舐められる事が多い上に、女性陣におもちゃにされる。良いことはあまりない上に、たまにお酒を買おうとコンビニやスーパーに行くと、酷いとバックヤードまで連行されることもしばしばある


良いことの方が少ないのだ


「ほっぺもこんなにモチモチ。朱莉より柔らかいんじゃないかしら」


今も現在進行形でほっぺをむにむにと撫で回されている。大変不服だが、悪気の無い女性相手に声を荒げるのも大人げない。慣れた、もしくは諦めているとも言う


そんな感じで死んだ眼でひたすらほっぺをムニムニされていると、流石に不憫に思った朱莉ちゃんから制止の声がかかった。ありがとう朱莉ちゃん、そろそろ擦り切れるんじゃないかと思っていた


「俺の頬は別に触っても構わないんですが、お土産に梨を持って来たのでどうですか?」


「あらごめんなさい。早速剥きましょうか」


「病院に刃物は厳禁ですから、もう剥いてあったりするんですよ。どうぞ」


更なる追撃が来る前にこちらからの提案で朱里さんの行動を封じる。折角買って来たものでもあるし、どうせなら食べながらお喋りした方が話も捗ると言う物だろう


そんな打算も含みながら、俺は持って来ていた保冷バッグの中からタッパーを取り出す。中には当然切り分けられた梨が瑞々しいまま入っている


本当ならあまり生鮮食品は病院内に持ち込みは避けるべきなのだが、病室が個室な事、朱莉ちゃんが病気ではなく怪我での入院な事、お菓子類では片手しか使えない朱莉ちゃんが食べづらい事を鑑みて、果物と言う選択になった


「美味しそー!!」


「はい、楊枝」


喜んで頬張り始めた朱莉ちゃんの姿に俺と朱里さんの表情も綻ぶ


この時期の梨は瑞々しくて甘い、特別美味しい時期だ。俺個人としても、この時期の梨は林檎よりもおいしいと思う


「ありがとうございます。あの子果物に目が無いので」


「それなら良かった。俺もお菓子より果物の方が好きなんで、喜んでもらえて嬉しいです」


果物の自然な甘さは、下手なお菓子よりも断然好きだ。海外にいた時は現地の果物を分けてもらったりしたことも多くて、沢山の珍しい果物に舌鼓を打ったことを覚えている


そんな風に俺が昔を懐かしんでいると、不意に視界に影が差した


「……?」


「あら?私ったら、変なことをしてごめんなさい」


原因は朱里さんだ。スリスリと優しく頭を撫でる手は、朱里さんも無意識に出たものの様で本人も不思議そうにしながら、それでもしばらく俺の頭を撫で続けていた


「……初対面でこんな事を言うのはおかしいと思うのだけれど、何か辛いことが有ったらいつでもいらっしゃい。いつでも、お話は聞くから」


「……どしたのお母さん?」


確かに初対面でそんなことを言われたのは初めてだ。あんまり突然な物だから、娘の朱莉ちゃんの方が訝しんでいる始末だ


何が朱里さんにそうさせてのかは分からないけど、俺の何かが彼女の琴線か何かに触れたのだろうか

本人もイマイチよく分かっていなさそうな雰囲気もあるから何とも言えないけれど


「はは、その時があったらお邪魔しますね」


母親ってのはこんなに温かいもんなんだな


俺は頭の片隅でそんなことを思い浮かべていた


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