母の面影
Aクラス魔獣の襲撃から2週間。ここのところは魔獣の発生も落ち着いていて、比較的平和に過ごせている中、俺は晩夏に差し掛かりながらも未だに元気な太陽の熱い日差しを受けながら、とある場所まで向かっていた
「あっつ。8月もあともう少しで終わるってのに、ちょっとは手加減してくれよな」
日除けにかぶっていたキャスケット帽の中の熱気を逃がして、日陰で一旦休憩
時間が真昼間というのもあるが、暴力的な暑さだ。特に色白で肌が焼けやすい俺は、この日差しも天敵だ。日焼け止めを塗っていなかったら、今頃真っ赤になっていただろうな
「さて、そろそろ行くか。あんまり遅くなっても仕方ないしな」
休憩もそこそこにして、俺は果物の入った保冷バックを抱え直し、目的地の公立病院まで歩みを進める
2週間前の魔獣襲撃で怪我をした朱莉ちゃんが、そこで入院しているから、今日はそのお見舞いだ
公立病院にたどり着いて、ナースステーションに真っ直ぐ向かい、面会の許可を取る。病室は事前に連絡を受けていたので問題なし
個室だという事で、細心の注意を払ってノックと一声かけて、返事があってから、俺は病室へと入って行った
「や、元気にしてる?」
「あ、真白さん。お見舞いに来てくれたんですか?この通り、元気ですよ。まだ安静にする様にって、お医者さんには言われちゃいましたけど」
「そりゃそうだ。治ったと思って勝手に出歩いちゃダメだぞ。怪我はしっかり食べて、しっかり寝るのが一番早く治る方法なんだから」
「はーい」
病室に入って軽く挨拶すると、パッと明るい表情になった朱莉ちゃんがこちらに振り向いてくれる。病院ってのは退屈だからな、こうやって平日の昼間にお喋り相手がいるってのは結構相手にとってありがたいことなんだよな
ただ、その朱莉ちゃんの右足と左腕はギプスがしっかり巻かれて固定されている。聞いた話によれば、魔獣の襲撃の時に吹き飛んで来たテーブルの下敷きになってしまったんだとか
骨折や打撲が主な怪我だとも聞いているので、大体全治二か月か
それで済んだのは不幸中の幸い、なのだと思う。飛んで来たテーブルの下敷きともなれば当たり所が悪ければ死んでしまう。骨折したことは良いことでは無いけど、顔とかにも傷は無いみたいだし、本当に良かった
「痛みはどうだい?あまり痛む様なら痛み止めを貰った方が良いよ。眠くなっちゃうけどね」
「ううん、大丈夫。治癒魔法で応急処置してもらったから、全治一か月だって。元々無茶ばかりしてたから丁度いい休みだって言われちゃった」
「確かに。この前も部活の練習頑張り過ぎて、病院に運ばれたんだもんね。しばらくゆっくり休むと良いよ。落ちた体力は、朱莉ちゃんくらいの年ならあっという間に元に戻るからさ」
成る程、治癒魔法を掛けてもらえたのか。それなら治りも早い
俺も扱うから分かるけど、治癒魔法はとにかく制御が繊細だ。針の穴に糸を通すような魔力操作が平然と求められる技術
それを受けられたと言うなら、残りの怪我は自然治癒で充分な位に回復しているという事だと思う。腕の良い医者と治癒術師のいう事は聞いておくものだ
「朱莉、具合はどう?……あら、お客さん?」
「あ、お母さん。うん、真白さん。最近一緒にランニングしてくれてた」
治癒術師に治療してもらえるなんて運が良いなぁと思っていると、病室の戸が開いて女性が一人入って来る
女性の方も俺に気付き、お互いに軽く会釈をすると朱莉ちゃんのがお母さんと呼んだ
朱莉ちゃんのお母さんか、確かに顔立ちと髪の色がそっくりだ。見た目は結構若い。30半ばだとは思う
「あぁ、貴方が真白さんでしたか。いつも娘の面倒を見ていただいてありがとうございます」
「いえいえ、声を掛けてもらってこちらも助かってますよ。しっかりした娘さんで、俺の方が子供に見えてしまいそうで」
「真白さん、制服着たら私の学校に普通に入れそうだもんね」
「コラ、朱莉」
軽く挨拶を交わし、朱莉ちゃんが冗談を言って叱られる。そんな和やかな雰囲気でお見舞いの時間は進んで行った
Tips:魔力
妖精界由来のエネルギー、本来は人間界に存在しない。妖精にとっては酸素のようなもので、これが無いと生きて行くことが出来ない。魔獣も魔力が無いとその肉体を維持できない
基本的に生命には無害どころか、成長の促進や運動能力の向上など有益な部分が多く、人間界では電力に変わるエネルギーとして研究が進んでいる
しかし、過剰に魔力を溜め込むと魔獣化し、その身体が肥大化、凶暴化する。これが現在人間界を脅かしている
知性の高い生命には親和性が高いとされているのだが、今のところ意識的に扱えるのは人間の女性の一部のみ、その理由は分かっておらず、現在研究中
※これから3話毎くらいにTipsとして、作品内の用語を解説していきます。何か要望がありましたら優先して掲載するので、感想コメントへどうぞ。あと沢山の評価Ptありがとうございます。とても励みになるので、イッパイください。もぐもぐします