真正面からぶち破れ
「……これ、やり過ぎじゃないか?」
「藤ねえがとことんやれって言った」
うん。私も冷静になって改めて思った。やり過ぎである。
必殺技を叩き込んで、アメティアの魔法の奔流にまで突っ込んだ結果。周りの森と地面は大惨事になっている。特に火属性と雷属性が合わせて3人+1匹と多いせいで延焼し始めてる。
地面は抉れてるし、木は倒れてるしでホントに酷い。少なくとも一人の人間相手にやることではない。
「死んじゃいねぇだろうな」
「死にかけてても治すわ」
「そういうことじゃないと思うっす」
腕の一本や二本くらいならバラバラになってても大丈夫だと思う。うん、魔法少女同士の戦闘は魔獣相手の時よりも周囲への被害が酷くなるんだね。
「あー、うん。死んでないから大丈夫じゃないかな。うん」
「なにその言い方?」
「すぐ分かるよ」
なんだか変な言い方をするパッシオも姿をいつものサイズに戻して私の肩に駆け上がってくる。
疲れたと言わんばかりに身体を首に巻き付けてひと休みを先に始めるのはずるいと思うんだけど。
とりあえずリエンダオを探しましょう。あとアズールに消火活動してもらわないと。
「アンタ達派手にやったわね~。S級相当相手に一歩も引かないどころかここまでボコるなんて」
「正直死ぬかと思ったわ」
そんなことを思ってる間に聞き馴染みのある声が倒れた木々の中から聞こえてくる。
破絶の魔法少女ウィスティーさんの声とさっきまで戦っていたリエンダオの声だ。
リエンダオを背負って、随分柔らかい雰囲気で親し気に会話をする二人に首を傾げた私達を見て、ウィスティーさんは満足そうに鼻息を鳴らして、私達の前へとやって来る。
「色々説明しなきゃいけないんだけど、今回の件は一通り丸く収まったわ。ドンパチはお終い。帰るわよ」
「え?どういうことです?」
「説明が先じゃないのウィス姉」
今回の件が丸く収まった、というウィスティーさんに皆ひたすらに首を傾げる。別に私達はリエンダオさんと和解したわけでもなく、何か状況を覆すようなことをした覚えもない。
ただただ戦っていただけだ。それでおしまいという簡単な話ではないし、どういうことなのか。と問いただしても、ウィスティーさんはまぁまぁと笑うだけだ。相変わらず話を回りくどくするのが好きな人だ。
美味しい話は後にしたいのは分かるけどね。聞く側としては先に結論を言って欲しい。
「というか、降ろしなさいよウィス。後輩たちの前で情けないったら無いわ」
「良いじゃない昔みたいで。あの頃は戦い疲れたリエをこうやって背負って帰ってたでしょ?」
「何年も前の話を出さないで」
笑いながらスタスタ歩き始めたウィスティーさんに私達はぶつぶつと文句を言いながらついて行くことになった。二人でイチャイチャしてないでちゃんと話してってば。
不満そうな視線を向けていると挙句に足場用の障壁をよろしくー、とご機嫌に言われて私達はため息を吐くのだった。
やって来たのは出発した諸星のお屋敷ではなく、魔法庁支部だ。何やら職員さんがバタバタと大慌てで書類やらなにやらを運んでいて妙に慌ただしい。
「なんだぁ?まるで引っ越しでもするみてえな雰囲気だな」
「流石の勘ねアズール。そう、魔法庁南東北支部はお引越し。それどころか事実上の解体ってところね。これから職員はしばらくバタつくでしょうね」
「えっ?!」
「解体?!」
ウィスティーさんの発言にこの場にいる全員が目を丸くする。魔法庁支部であるここが事実上の解体とは一体どういうことだろうか。
魔法庁は文字通り魔法に関する事柄を管轄する省庁で、今世の中を支える魔法少女の管理監督をしているのも知っての通り。それが解体というと、この街の政府所属の魔法少女はクビということになる。
「その詳しい話はここでするわ。何があったのか、説明するのに一番手っ取り早く説明できるから」
やって来たのは支部長室。私に逮捕状の要請を出した、という張本人が仕事をするための部屋になるわけだけどここまで来て、その張本人とご対面という話にはならないだろう。
なんだろう。ちょっと嫌な予感がするというか、頭が痛い事が起こってる気がする。
横を見るとフェイツェイとノワール、それとアズールも渋い顔をしていた。
やっぱり皆もそう思う?なんか、どうにもあの人たちが絡んでる話な気がしてならないんだよね……。
ガチャリと音を立てて開かれたドアを通って中に入ると立派な机と皮張りの背の高い椅子がある。
こちらに背を向けているその椅子がクルリと回って、見ることが出来たその姿は見覚えのあり過ぎる姿だった。
「ようこそ。魔法庁南東北支部、改めまして『魔法少女協会』へ。私は会長の諸星 光よ。よろしくね」
ウィンクをして悪戯成功といった茶目っ気を出す光さんに主に諸星関係者の魔法少女達が頭を抱える。
光さん、今度は何したの……。




