覚悟を決めろ
パッシオとの話は一旦ここまで。細かい話は後ですることにしよう。別にいつでも話は聞けるしね。
どちらかというとパッシオの話より、個人的に気になるのは指名手配とやらの方だ。
記憶とかそっちの方が重要なんじゃないかと思うけどハッキリ言って対策しようがないし、私自身が飲み込むことにした以上、目下の問題はそっちの方。
一切合切の心当たりがない。何がどうなってそんなことになっているのか、今すぐ説明してほしい。
「とりあえず話したいことは話したので、指名手配の方を――」
「にゃー」
気を取り直して、光さん達に話しかけようとしたところで腕に抱えたままだったリオ君がするりと腕をすり抜けてドアの方へととてとてと歩いて行って、ドアノブ目掛けてジャンプする。
ガチャリと見事にドアノブを回したリオ君が飽きたからお外に行きたいのかなと思った矢先。
「のおっ?!」
「あっ、馬鹿!!」
「あちゃー……」
「ど、どもっす~」
ドアに寄りかかっていたのか、碧ちゃんが部屋に倒れ込んできた。その後ろには千草と頭を抱える朱莉、誤魔化すように笑っている舞ちゃん。ぽかーんとしてる紫ちゃんと墨亜がいた。
皆して聞き耳立ててたのね。いったいどの辺からいたのやら。私も含めてその場にいた多くの人からため息が漏れる中、状況は更に混沌としていくのだった。
あんまりにも混迷としたのと夜ももう遅く、子供は寝るようにというお達しにより私達は丸々部屋に帰された。
話すことはまだまだあるのだけれど、時計を見れば3時を過ぎている。子供でなくてももう寝る時間。寝ろという判断はそれほど理不尽なことなようにも思えなかった。
話自体はしようと思えばいつでも出来る。これから死地に向かうわけでも何でもないしね。
寝て起きて、冴えた頭で改めてというのには個人的にも賛成だ。
「なんだか結局取っ散らかって終わっちゃったね」
「誰も予定通りの結果にならなかったからでしょ。私が乱入するのも予想外だし、皆が乱入するのも予想外だし」
皆で寝ていた部屋に戻り、いそいそと布団に潜りながらパッシオと雑に会話をする。因みに姿はもういつもの妖精の姿だ。
人間の姿でいるのはとても燃費が悪いらしい。本人曰く、動くには便利だけど。普段使いは出来ないとのこと。
「なんていうか、凄い普通に喋ってるわね」
「だけどそんなに極端な違和感を感じませんね。不思議です」
この間、周りには普通に皆いる。一緒の部屋で寝ていたのだから当然だけど皆が皆不思議そうに私達の事を見つめている。
今まで使い魔だと思ってた生き物が、自分たちと同じように会話するってわかったらそりゃそうなるよね。私も最初は色々と怪しんだもん。
「妖精、だったか。不思議な生き物だな、姿かたちが自由自在なのか?」
「千草、もうちょっと丁寧に持ち上げてくれないかな。まぁ、ある程度は姿を変えられるけどある程度だ。何でもかんでもってわけじゃないし、この姿以外は基本的に燃費が悪いよ」
首の後ろを掴まれてぷらーんとしているパッシオが掴んでいる千草に文句を言いながらかみ砕いて答えている。
魔力で身体を構成している妖精ならでは特性の一つだと思う。とはいえ万能ではないそうなので使う場面は限られそうだ。戦う時もいつもの姿の方がよっぽど強いとか。
「んー、真白お姉ちゃんがお兄ちゃん?」
「その辺はどうなんです?真白先輩」
「どうと言われてもな―。私自身にその自覚が全く無いし」
「実際、私達の誰も男の人だった真白の事を知らない?覚えてないしね。覚えてもいなければ見た覚えもないものを意識しろって言われても無理ね」
悩む墨亜と舞ちゃんだけど、朱莉の言う通りこの場にいる全員が私が男の人だったということを知らないか覚えていない。
唯一覚えているのはパッシオだけだけど、パッシオ的にも男の人の姿を見ていた期間の方が短いらしいし、なんというかそれが事実だとしてもだからどうしろと?となってしまうのはもうしょうがない。
だって覚えていないもん。パッシオからそうなんだよって教えてもらって、ようやく合点はいったもののそれだから認識や態度を改められるかと言われればそれは別なのだ。私はもう女の子だという認識しかなく、改めようがない。身体も女の子なわけだし。
「一応、この中だと碧と紫と朱莉が男の時の真白と会ってるよ。ランニングしてた頃かな」
「ほーん?でもウチが覚えてるのは今の姿のままだなぁ。変に男のフリしてたけど」
「それがもしかしたら名残なのかも知れませんね」
一応は会っているらしい碧ちゃん達もバッチリ覚えていない。覚えていたとしても今の私の姿で出会ったと記憶しているので、男の人だった私と言われても首を傾げるだけだ。
「そこんところどうなのよパッシオ」
「どうって、見てくれはそこまで変わらないよ。身長がもうちょっと高くて、髪が少し短くてちょっと目つきが悪いくらいかな。あー、顔立ちはもっと男の人っぽいよ?綺麗だけど女の人に間違えるほどじゃなかった」
「つまるところ特に変化はない、と」
「やっぱなんも気にするこたねぇな」
「今がこれだしね」
自分で言うのもなんだけどね。もうほんと、そうらしいってしか思えないからパッシオに覚えてもらうしかないんだよ。少なくとも、私はそれを悪いことだとは思ってない。
ちょっとよく分からない奇跡が都合よく私を変えてくれたくらいの気軽さで良いと思う。自覚が無いから言えることなんだろうけどね。




