それぞれの魔法少女
床を転がりながら痛みに悶絶するアズールを横目に、次々と他の魔法少女達がこちらへと戻って来る
その中にはさっきまではいなかったフェイツェイとノワールの姿もある。増援で来ていたのか
「ルビーちゃんは大丈夫ですか?」
「応急の手当ては済ませたわ。一応、可能な限りは治療したけど、完治には療養とそっち側の治癒魔法を使える人達に頼ってちょうだい」
真っ先に声を掛けて来たのはやはりアメティアだ。心配そうにしている表情を少しでも安心させてあげるため、すでに意識が回復しているルビーへと目配せをする
するとルビーも気が付いた様ににへらっと気の抜けた笑みをして見せた
「良かったぁ」
安心したアメティアはへなへなと床に座り込んでしまうが、安堵から来る虚脱感だろうから一先ず安心してもらえたと言う認識で終わらせる
後で腰が抜けて立てないとか言いそうな気がしないでもない
「アリウムお姉ちゃん、ルビーお姉ちゃんの怪我治してくれてありがとうね」
「どういたしまして。ノワールも来てくれてありがとう。おかげで助かったわ」
「うん!!」
次にやって来たのは最年少のノワール。ニコニコとしながらぺこりと頭を下げてお礼を言うサマは可愛らしいの一言だ
彼女がいるだけで、辺りの空気が和らぐのは事実だろう
俺にお礼を言った後はまだ床に寝ているルビーの下へ行ってお喋りを始めたが、それによりルビーの表情もどんどん和らいで行っているのは子供だから出来ることの一つのように思える
「私からも礼を言わせてくれ。無謀な事をした後輩を救ってくれて感謝する。この恩は必ず返そう」
「あいたた……、私からも言わせてくれ。ありがとな、アリウム。元々ルビーが無茶しなくちゃいけなくなったのは、リーダーの私の甘さだ。アンタがいてくれて本当に助かった」
流れるように、年長者のフェイツェイとアズールがしっかりと頭を下げてお礼を言う
堅苦しいフェイツェイと、緩いアズールの対比が何とも奇妙だが二人の魔法少女が心の底から言ってくれている事は伝わった
万事上手くいった訳ではないが、何とかなって良かったと俺も思う
これでようやく一安心と行きたいところだが、皆の姿を見て思うことが無い訳ではない
「こちらこそありがとう。皆の協力のお陰で私はルビーの治療に専念出来たから。けど、それよりも皆も傷だらけじゃない。ほら、一番はアズールよ。貴女も相当無茶したでしょ?擦り傷と切り傷だらけにして」
「いやははは、結構手強くてよ」
「全くだ。猪突猛進に突っ込むからな、アズールは。少しは回避や防御も頭に入れた方が良いぞ」
「貴女もよフェイツェイ。左脚を庇って歩いてるのはバレてますからね?立ってないで座ってなさい」
「うぐっ………」
ホントに、変に我慢強い子ばかりなんだから。痛いモノは痛いと言う。これは治療を受ける上での鉄則
ここで変な気の使い方をされて、怪我を長引かせたり、悪化させたりされるよりはすぐに言ってもらった方が何倍も良いと言うのに
バツが悪そうにする年長組を優先に、治療をし、年少組のノワールやアメティアの怪我の有無もチェックする
そこまでやって、ようやく今日の俺の仕事は終わりと言ったところだろう
「じゃあ、またね」
そうして俺はその場を離れ、一緒にここに来ていた筈の少女達の安否を確認すべく急いでスマホを叩いた
それどころじゃなかったとは言え、朱莉ちゃん達も襲撃直後にあの場にいたのだ。何事も無ければ良いが
アリウムが去って行ったのを見送り、処理班の到着を待っていると私達の私用のスマホのバイブレーションが鳴る
「あ、真白さんから連絡来ましたよ。こっちは無事だ、そっちは大丈夫か?だそうです」
「んー、私らこれから魔法庁に行かなきゃいけないしな……」
「知り合いか?それなら、もう処理班に保護されて帰宅途中だとでも言っておけばいいだろう」
「朱莉の事もそれとなく伝えた方が良いな。まぁ、怪我して朱莉は病院に行ったとでも言えば良いんじゃねぇかな」
動けない私の代わりに同じグループに入っている紫と碧が内容を確認してくれる。真白さんも無事だったらしい、良かった
ただ、これから私達は魔法局に行って調書や治療を受けなくちゃならない。私なんてそれこそ病室直行だと思う
怒られそうだなぁ、と思いながら私はお店に置いて来てしまった買ったシューズを回収してもらおうと提案することにしたのだった