覚悟を決めろ
『妖精』。そう言われて、特に魔法庁の面々を中心に疑念を含んだ視線を向けられる。ふざけているのか?という感情を多く含んでるように思う。まぁ、得体の知れない奴が自らを『妖精』だなんて名乗ったら頭がおかしいかふざけているって思うよね。
「ふむ『妖精』か。申し訳ないがその『妖精』というものについてまずは説明をしてほしい」
「勿論。端的に言えばこの世界とは違う世界の生き物。異世界人、と称することも出来るかもね」
「待って。妖精なんて自称してる時点で馬鹿げているのに異世界?冗談じゃないわ。お前みたいな得体の知れない化け物の言葉なんて一々聞いてられないわ」
化け物ね。ま、確かに人間からしたら僕は化け物だろう。全容が掴めない、自らの常識から大きく外れた存在は理解が出来ない。理解が出来ないものを人は恐怖と表現する以上、藤子さんの反応は極めて正常だと思う。
彼女に悪気はない。彼女は魔法少女として、この世界の最大戦力として、不安要素の排除も責務の一つだろうしね。僕としては彼女の行為に対しては不愉快どころか好印象だ。
僕が同じ立場であるなら、恐らく同じことをしているからね。
「藤子、落ち着いて。話を聞くように言われたばかりでしょ?」
「うぐっ、ですけど……」
「相手は暴れまわる魔獣じゃないのよ。とても理性的に話をしている。私達が暴れてどうするの?とにかく頭を冷やしなさい。貴女の悪い癖よ」
「す、すみません……」
新田先生の言う通り、藤子さんは猪突猛進というかまずは身体が動くみたいでもう一度諭されて渋々とソファーに身体を鎮める。
重ねて言うように、決して藤子さんの感性や行動はおかしいモノではない。実に当たり前の反応だ。理性的に僕の話を聞こうとしている他の皆がおかしいというわけではないけれど、場慣れしている結果だろうね。
諸星なんて、取り乱したらそれだけで競争相手に負けてしまうだろうしね。逆に言ってしまえば、藤子さんがいかに常に最前線で戦い続けてきたのかが分かる。それ故の危機感だ。
「話を続けるよ。異世界、というのはそのままの意味で僕はこの世界の生まれの生き物じゃない。君たちからしたら化け物であるのは認めよう」
「本物の化け物だったらとっくの昔に私達は襲われているのよね」
「私なんて、昼間は一緒にゲームセンターで遊んだくらいですから。むしろその辺のチンピラよりずっと安心感があるかと」
僕自身が皆から見て化け物だということを認めると、光さんと美弥子さんから援護射撃が入る。
確かにその通りだ。僕が化け物なら真っ先に襲われている二人だろう。美弥子さんなんて特に襲うタイミングはいくらでもあったしね。ゲームセンターは楽しかったよ。
あははは、とそれに軽く笑いつつ話を進める。とにかく僕に害意は無い。むしろ守るべき対象の一つだ。
「失礼します。何故、異世界の住人がこちらに?」
「それも含めて説明するよ。というか、それをしないと僕自身の話をしようがないし」
雛森さんの質問にも当然答えるつもりだ。僕の立場を説明するのには妖精世界のことを簡単に説明をしないとどうしようもない。
さてさて、僕の少ない語彙でどこまで説明できるやら。とにかく、説明できる範囲で話してみよう。
「簡単に言うと、魔法が世界の根幹にある世界、かな。魔力がこちらで言う酸素であって、それを消費して発動する魔法が、こちらの世界でいう物理に該当すると思う。根本的なルールからして大きく違う世界だというのは間違いがない。こっちの世界に魔法がなかったように、僕の世界には科学技術がなかったしね」
全ての事を魔力と魔法という万人が扱える方法で解決する事ができた妖精界は、とにかく個人主義の世界でもあった。
僕が生まれ育ち、仕えたミルディース王国は王家の方針もあってか、まだ協力をするということに理解があったし、それが如何に強い繋がりになるのかは知ってるけど、他国に行けば行くほど個人主義的が強まっていく。
「科学が無い世界ですか……」
「科学が当たり前の私達からすれば、どんな世界か想像も出来ないわね」
「それは僕らにとってのこの世界さ。よもや、魔法どころか魔力もないのに、場合によっては魔法より優れた科学を持つ君達の存在の方が僕達妖精からすれば、驚きだったよ」
初めて科学を見た時、僕ら妖精は科学こそが魔法だと感じたけどね。
人間からすればそれが魔法だ。お互いの世界に想像がつかないのはよく分かる。
「で?なんでそんな異世界の生き物である妖精が私達の世界にいるんだ?」
「簡単に言うと島流しさ」
「島流し?」
おや?通じなかったかい?こう言えば通じるかと思ったけど、言葉っていうのは難しいね。
いや、分かってはいるけど、なぜ島流しされたのか、島流しされるような事をしたのか、という疑念かなこれは。
周囲の視線を読み取りながら、僕はそう判断する。もっと良い言い方が無かったのかと問われると、うーん僕の語彙が足りないなぁ。
ともかく、どうしてそうなったのかだね。それも実に簡単さ。
「僕がいた国が戦争に負けたのさ。戦争に負けた側の将校が、敵国に捕まれば処刑される。その処刑の方法が魔力の薄いこの世界に送り込むというやり方だったんだよ」
妖精にとって、魔力は酸素であり栄養でありエネルギーだ。それが希薄な場所に飛ばされたら、どうなるかは明白だよね。




