これでも元護衛職ですから
と、言うのは簡単だけど実際にやるのは恐らく至難の技。それに相手がどんな者なのかも分からない。ここは色々と既に状況を把握している光さんに一通りは聞いておかなきゃいけないだろう。
「具体的に相手はどんな奴で、どんな手段を講じてくるんです?」
「そうね。対魔法少女に特化した警察組織、と言えばいいかしらね。魔法少女と偏に言っても中には犯罪に手を染める子もいるわ。そういった悪事に走った魔法少女を専門に取り締まって、逮捕や取り調べ、起訴や拘留までを行う特殊部隊」
「と、いうことは」
「えぇ、彼女達は元魔法少女よ。しかも飛びっきりの実力者。立場的に警察や検察に分類されるし、実際職務はそうよ。」
ただし、所属している元魔法少女は全員飛びっきりの実力者、ということか。なるほどこれは厄介だ。
僕は車のシートに座りなおして、じっくりと考える。恐らく魔法少女のランクで言うならAでもトップクラス。あるいはそれ以上のSクラス相当。
戦闘能力で言えば、この魔法少女達それぞれを圧倒するだろう。それは同じS級魔法少女であるウィスティーさんを見ればよく分かることだ。
「相手は複数?一人?」
「一人よ。元々そう多くの人材がいるわけではないし、幸いこの国での魔法少女の犯罪率は低い傾向にあるわ。実力も高いことも相まって、かなり迅速にそして単独で魔法少女を捕まえるのが彼女たちのやり方」
「なるほどねぇ」
高い実力故の単独での活動。そこまで聞いて僕は改めてじっくりと考える。アリウムを逮捕するなら、恐らく対アリウムに適した人材を派遣するだろうことは想像に難くない。
その方法自体は色々考えられるけど、特にアリウムは肉弾戦に難がある。その辺りを攻めてくると予想しておくのが一番無難かな。
「もうその人は到着しているのかな?」
「流石にそこまでは把握しきれないわ。少なくとも明日にはこの街にやって来ていると考えるのが筋でしょうね」
「早いねぇ。ま、当然か」
被疑者を捕まえるのに何よりも重要なのはスピードだ。のんびりやっている内に勘付かれて逃げられでもしたら目も当てられない。
僕ら騎士だって、襲撃者を捕まえる時は最速を求める。こればっかりは大前提の考えだろう。
なんならもうこの街にいてもおかしくないと考えるのが無難だ。と、なるとだ。最も有効かつ、事態を遅延させて状況を整える時間を作る選択肢はこれしかない。
「方針が出たようね?一応聞かせてもらってもいい?」
「簡単だよ。真白にしばらく変身させない。スパイ容疑で逮捕状が出ているのはあくまでアリウムフルールだ。アリウムフルールを諸星真白だと証明する手立てと情報を、あちらは持ってない」
「根拠は?」
「分かってたら光さんはこんなところにいないよ。だってもしそうなら、お相手は真っ先に諸星のお屋敷に行くだろうからね」
真白を魔法少女アリウムフルールに変身させない。当面の方針はこれ一択だろう。
変身して姿を現せば文字通りお相手が飛んで出てくるはず。よしんぼそうでなくても、身元を特定しようとしてくるはず。そうならないためにはそもそもに変身しないことが最も手っ取り早い。
そうすれば、アリウムフルールは絶対に捕まらない。その時間をフルに使ってお相手さんに引いてもらう手段を講じるのが僕らが今出来る最も有効な手段。
問題があるとするなら真白が十中八九駄々を捏ねる。ということなんだけれど……。
「真白様が戦いに行くなと言って聞くとはとても思えません。静止を振り切って無理にでも行くかと思いますが……」
「それは私も同感。そして最大の障害でもあるかしらね」
「そうだね。彼女の性格。そして彼女が身を捧げる使命を考えれば、その行動は容易に想像がつく」
それはこの場にいる三人全員の共通意見。あの真白が、自分の身に危険が迫ってるって理由で止まるわけがない。むしろ自分の身が何だというのだと豪語して見せるだろう。
そのままではお相手の対魔法少女の特殊部隊と全面戦争なんて事態に成りかねない。そうなれば最悪の状況だろう。
相手は真白を疑い、真白は降りかかる火の粉を払う。ただでさえ【ノーブル】のことでてんわやんわだというのに、更に混沌する。それはどうしても避けなくてはならない。
それにだ、真白についてそれとは別に変身や戦いを避けてほしいという事情も僕にはある。
「光さん。急で申し訳ないんだけど、雛森さんと連絡はとれるかい?どうせやり取りしてたんでしょ?」
「あら鋭い。何をするつもり?」
「先に洗いざらい吐くとするよ。代わりに全面的に協力してほしい。これは真白のためでもある」
どうせ光さんに吐かされるんだ。ここで手札の一枚として切った方が有効に使えるだろう。
それが、僕の、僕ら妖精のして来た罪の告白だとしてもだ。
腹を括るっていうのはそういうことだろう?




