そうだ街へ行こう
でも、どうやら来るのは美弥子さんではなく別の担当者が来るらしい。多分ボディーガード専門の人かな。SPってやつ?
玄太郎さんが移動するときとかは3人くらい護衛つけてるし、そのうちの余剰人員の一人を回してくれたのだと思う。
ただ、美弥子さんが妙にひそひそ声だったのが気になる。こっちに来れないらしいけど別のお仕事中だったのかな?
「うわぁ、わがままお嬢様って感じね」
「ふふんっ、使えるものは使うのだよ朱莉君。ワガママじゃなくて有効活用ですよ」
「その辺すっかり染まったわねホント。ちょっと前はもう少し遠慮してたんじゃない?」
それはそうかもだけど、ワガママはしていいと言われたのでガンガンしていく所存だ。それがお仕事なのだから、使用人とSPの皆様には存分にお仕事をしてもらおう。
あ、勿論無茶苦茶なことは言わないよ?困ったことを手伝ってほしいって時だけ。自分で出来ることは私だって自分でやります。
おしゃべりをしながらお店を出て、待っていると男性が一人駆け寄って来て、名刺を取り出してから私達の荷物を預かる。
両手に合計10袋の紙袋を軽々と持った彼はまた足早に私達の元から離れていった。
お仕事よろしくねー。
「……お嬢様のお世話も大変ね」
「あの人たちはそれがお仕事だから良いんだよ。使わないと評価が下がっちゃうもん」
大変かもしれないけど、使用人というのはお世話するのがお仕事なのだから、彼ら彼女らのお仕事は可能であるなら率先して振るのが正解なのだ。
全部自分でやってしまうと使用人たちの存在意義を奪ってしまうことと同義。仕事を奪われてしまうと結果として評価が下がってお給料にも反映されてしまう。
そうなれば路頭に迷うことになるのは使用人の人達。
これは普通に暮らしている人達からすれば首を捻るのかも知れないけど、私は今そういう世界に生きている。
耳にタコが出来るほど光さんと玄太郎さんから言い聞かされたことの一つだ。
「で、次はどうするの?」
「ゲーセンとかどう?音ゲーやりたいのよね」
「……行ったことない」
「アンタ何処なら遊んだことあるの???」
私も知りたいくらいだ。一体私は今までどこで何をして遊んでいたんだろうね。
思い返すと、常に勉強しかしてきた記憶しかない。
世界中を回って人を助けて、教室でも誰ともしゃべらずにずっと何かの教材を開いてて、ホント何をしてたんだろうって――。
「……あれ?」
「ん?どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。忘れ物したような気がしただけだった」
ここで、私は自分の記憶と記憶が上手く噛み合わないような気がして、一歩だけ立ち止まる。
何かが、何かがおかしいようなそんな感覚。決定的な何かがズレている様な。そんな感覚に襲われた私に朱莉が振り向いて声を掛けて来るけど、私はかぶりを振ってこの感覚を追い出す。
おかしいな。私は間違いなく学生の時期をクソ親父に連れられながら世界中で医療活動をしていたはずなのに、なんで見覚えのない学生服を着た私が脳裏に浮かんだんだろう。
そんな経験、私はしていないはずなのに。
それに、なんで私は女子用の制服じゃなくて、男子用の制服を学ランを着ていたんだろう。
なんでだろうなんでだろうと考えていくうちに、パッシオがこの前言っていた一言に、ふと思い至った。
「ねぇ朱莉」
「何?」
一緒に歩く朱莉に無意識に声を掛ける。得体のしれない不安感に襲われていることを出来るだけ悟られないように、振り向いた朱莉に問いかける。
「私って、女の子だよね?」
「はぁ?どっからどう見ても女の子でしょ?アンタが男だったら世の中おかしいわね」
「そう、だよね。うん、そうだよね」
そうだよね。私は女の子だよね。どこからどう見ても、私はただの女の子。魔法少女に変身できるちょっと特別な女の子。
でも、それでも、どうしても心の中に変なしこりは残り続ける。
パッシオが言っていた「君は男の人なんだから」って言葉が、私の頭の中をぐるぐると回っていた。




