WILD BLUE
アリウムの障壁に守られながら、もう一度魔力を『ヴォルティチェ』に纏わせる。アリウムの万能な障壁を削っていく魔法達は狙いや作りは雑だが、威力だけは一級品。
でたらめな魔力とパワーを持ってるだけはあるぜ。とりあえず攻撃すればそれが必殺になるのは脅威でしかない。
ただし、技術を飛び越えて有り余る力は得てして単調だ。ウチがよくわかっている。
その対処法も、な!!
『ヴォルティチェ』の柄に繋がった鎖を左手で持って、右手に持つ『ヴォルティチェ』を魔獣めがけて投擲する。
アリウムの障壁も砕きながら突き進んだそれは飛んでくる魔法も蹴散らしながら魔獣へと向かう。
当然、魔獣は避ける。けどこれじゃ終わりじゃねぇぜ。
「逃がすかぁっ!!」
「ガアアアァァッ?!」
持ったままだった左手の鎖をぐんっと引き『ヴォルティチェ』が前に進むのを止める。ただし、勢いは殺さないまま。鎖で上手く誘導しながら、水の魔力を膨れ上がらせて地面を抉りながら魔獣にその刃先を叩きつける。
「まだまだ行くぜぇ!!」
鎖を持つ手を起点に、ぐるぐると回って巨大な戦斧が地面を捲りあげる。『ヴォルティチェ』から溢れ出る水がそれらを飲み込んで濁流になりながら魔獣へとさらに追撃を重ねていく。
反撃のために魔獣が拳を振るうけど、この濁流の前には何の意味もない。押し流され、『ヴォルティチェ』に叩きつけられながらじりじりと後退していっているのがわかる。
そして焦るように魔法をまた放って来た。
「上!!」
「サンキュー!!」
アリウムの短い声に即座に反応して、持っている鎖の反対側。分銅がついてる方を上に投げて、展開してあった細長い障壁に巻きつけると『ヴォルティチェ』も引き寄せて手に戻し、再び上に投擲する。
すると、『ヴォルティチェ』の勢いに引っ張られて、鎖を握っていた私の体が上空へと一気に持ち上がる。
素早く身を翻して、鎖を巻き付けた障壁に着地するとさっきウチがいた場所に魔法が殺到しているところだった。
「同じようなの頼む!!
「OK!!」
いつの間にか空中に障壁を張って、安全圏に退避していたアリウムとパッシオを横目に見ながら、ウチは足場用の障壁をオーダーする。
すぐに展開された障壁の上を駆け抜け、分銅と『ヴォルティチェ』を別々の方向に投擲。
両手で鎖を操りながら、魔獣に叩きつけた『ヴォルティチェ』を引き寄せて手元に戻してもう一撃振り下ろす。
「グルルルルルルッ!!」
「へへっ、ようやくやる気になったってか!!」
先ほどまでよりも強い、明確な敵意を放つ魔獣相手に『ヴォルティチェ』の刃先と鎌がガチガチと鍔ぜりあう。
ここで左腕の鎖をグイっと引っ張り、巻き付けていた辺りに転がる数本の樹木を魔獣目掛けて落とす。
魔獣の鎌を弾いて、体勢を崩させた後。また分銅を空中にある障壁に巻き付けて宙に身を放り投げると、落とした樹木と高さが入れ替わり、ウチが高く、落とした樹木が下になる。
「ぶっ潰れろ!!」
樹木を目隠しに、『ヴォルティチェ』に纏わせた濁流を樹木の上からぶつける。勢いを増した樹木と逃げ場を無くして威力も上げる濁流が足元に転がっていた大量の樹木たちを更地と森の境界線まで押し流した。
「よっと」
「やるじゃない。そのメモリー、アズールにピッタリみたいね」
「へへっ、最高に気分が良いぜ。頭も冴えてるし身体は軽いしな」
アリウムのいる足場の障壁へと飛び降りると、眼下の光景を睨みつけながらアリウムに調子がよさそうだといわれる。
このメモリーの力なんだろうな。ウチが『固有魔法』を使っても平然としていられる上に武器も魔力も強化されてる。
アリウムもルビーもフェイツェイも、こんなすげぇのを使ってたかと思うと少しズルく感じるぜ。
それでも、あの魔獣が仕留めきれたとは思わねぇけどな。
「どう見る?」
「ようやくまともなダメージってところね。トドメの段階ではないと思うわ」
アリウムも同じ判断らしい。実際問題、濁流がまだ渦巻いてる中から、荒っぽい魔法が飛んできた。




