再襲来
皆が飛んで行ったのを見届けた後、魔獣と向き合う。見た目に対して鈍重で助かる。
とにかく動き出すまでが遅いから出来た所業でもあるし、やはり常日頃から観察と分析の癖はつけておいて損はないなと感じるところだ。
昔からやってなかったわけではないけど、より具体的なコツややり方は光さんから教わった。あの人たちから学んだことは多い。あーあ、また怒られるんだろうなと私は自嘲気味に笑った。
すると、私を背に乗せる相棒から不満たらたらな気配と言葉が飛んでくる。
「……アリウム」
「文句は後よ。これが最善、そうでしょ?」
「全く、君ってやつは……。わかってるのかい?以前あの魔獣を止めた僕はまだロクに戦える状態じゃない。せいぜい小さな火の弾を出せるくらい。この姿だっていつまで維持できるかわからないよ?」
「その時は私一人でやるわ」
そう言い切ると、相棒は思いっきり大きなため息を吐く。明らかに呆れとかそういうものを含んだため息だ。
失礼な奴め。そっちだって怪我をしてロクに戦えないくせにここに来たんだから、お相子じゃない。
「さ、やるわよ相棒。私達がやると決めたことを」
「OK、相棒。死ぬときは一緒と行こうじゃないか」
そんなつもりは微塵もないくせに、皮肉めいた口調で軽口を叩きあう。うんうん、私とパッシオはこうでなくちゃ。
このくらいの余裕が心地いいし、やりやすし、何よりテンションも上がる。
「まずは一発入れてあげるわ!!『固有魔法』!!」
出し惜しみなんてしている場合じゃない。一時でも多くの時間を稼ぎたいのであれば、一秒でも長く、あの魔獣に反撃させない必要がある。
パッシオにまたがりながら『固有魔法』を発動させた私は巨大な鈴蘭の花びらを模した障壁を空中へと幾つも投げ飛ばす。
それをもう一度水の鞭で全て絡めとり、巨大なモーニングスターのような形状へと変化する。
同じようなことを何度かしているけど、規模が圧倒的に違う。あれが叩くや殴るであるなら、これは確実に潰す技だ。
「『モーラトラディッシュ』!!!!!!」
魔法名を叫びながら、その巨大な水の塊を魔獣へと振り下ろした。
ただ、それだけで終わるとは毛ほどにも思っていない、次から次へと魔獣がいるはずの方向へ片っ端から作った障壁を投げつける。
ただし、ぶつけるのではなく辺りに転がしたり、空中に再び固定したりしてだ。
「ゴアアァァアァァッ!!」
「もう一発くらいなさい!!」
魔獣が飛び出してきたタイミングで手を叩いて、配置した障壁を炸裂させる。
障壁の中に押しとどめられていた水が一気に溢れ、魔獣の飛び出す勢いを削ぎながら、その激流の中に魔獣を引きずり込んだ。
魔獣も生き物。呼吸が出来なければ死んでしまうが、果たしてこれがどこまで通用するか。
「マホ、ショージョォォォォォォォッ!!」
「ちょっとタフが過ぎるんじゃない?ホント嫌になるわ」
「走るよ!!」
何度目かもわからない感想を漏らしながら、走り出すパッシオの背にしがみつく。振り落とされないようにしながら、障壁を次々と生み出し、追ってくる魔獣が近づくと炸裂させて足止めをする。
捕まった瞬間にお陀仏なのは確定。必死に逃げ、耐え、それでも攻め続けるしかない。
時折、ノワールの援護射撃が飛んでくるのもありがたい。あの子ももう魔力がギリギリのはず。後でお礼を言わないとね。
「アリ、ウムゥゥゥゥゥっ!!!!」
「しっかり私のことを覚えてるじゃない。どおりで私たちに食いつきが良いわけだわ」
「粘着力だけは強そうな男だったからね!!」
振り下ろされた拳をジャンプして避けたパッシオが身を翻しながら方向転換をする。すれ違いざまに足元をぬかるませて、水の鞭で足首を捉えてパッシオの勢いに任せて引っ張ると、その巨体を面白いくらいに転がしていた。
一度止まれば遅い。こうなれば起き上がり、動き出すまでの時間を稼げるはず。
私に出来るのはこんなことくらいだ。地道に続けるしか、勝ち筋は見えない。
「まだいけるわね?!」
「もちろん。そっちこそ先にへばらないでよ!!」
気を紛らわせるために相変わらず続く軽口が、すり減っていくメンタルを回復させる唯一の手段だった。




