再襲来
とはいえ、このままではどう足掻いてもじり貧だ。あちらの攻撃はこちらに対して一撃必殺なのに対して、こちらの攻撃はあちらに殆ど効果がない。出来て足止め、これが何かの拍子に瓦解した場合、この魔獣の次の標的は私達の後ろにある街になると考えた方が良い。
慎重に、ただし攻めていかないとダメ。だけど、一撃ももらえない。状況としては酷いどころの話ではない。人によっては諦める部類の物だと思う。
諦めるつもりは、微塵もないけれどね。
「――がぁっ!?」
「っ!!なに?」
「爆発した?」
どうするにもこうするにも攻めあぐね、決めあぐねているところに魔獣の左肩部分で急に爆発が起こる。何事かと思い、辺りを見渡しても周りは変わらず木々に囲まれた森の中。周囲に爆発するようなものどころか、火の気すらない。
「ぐぅぅっ!!がぁっ?!」
魔獣の方も何が起こったのか分かっていないのか、警戒するように辺りを見渡すけど、やはり何もない。
その最中、また魔獣の身体、今度は右腕上腕部分に爆発が起こる。小さな爆発だけど、熱と衝撃は確実に伝わっているらしく、魔獣は嫌がっている様子だった。
「……ノワールの狙撃か?!」
「榴弾ね!!やるじゃない!!」
その後も続けざまに小さな爆発が起こり続け、魔獣は嫌がり一歩二歩と後ずさりをしていく。そこまで来て、私達はそれがノワールの狙撃による攻撃だとようやく理解できた。
どうやら、魔法の弾丸の特性を変えたらしい。あの子も器用なことをするわね。
「どりゃああぁぁぁっ!!」
思わぬノワールの機転に驚き感心しているのもつかの間、聞き覚えのある声が雷鳴と稲妻を奔らせながら魔獣へと突き刺さる。
目で追えない速度から叩き込まれた渾身の飛び蹴りは、魔獣の頑強な肉体がどうこうという前に物理的な衝撃で吹き飛ばされる。
その雷鳴と稲妻を放っていた主が魔獣の蹴り飛ばした反動を利用してこちらへと宙返りしながら着地をした。
「加勢しに来たっす!!」
バチバチと足元に電気を纏わせながら現れたクルボレレちゃんの登場。心強いが、今しがた経験の少ない彼女を矢面に立たせるのは良くないという意見が出たばかりだ。
それに、彼女はまだ野良だ。半分は政府所属の魔法少女のようなものだが、正式に所属が決まったわけではない。戦いの訓練を受けてはいるけど、広義の目で見れば彼女は一般人。
やはりここは安全なところへと、と思ったところでクルボレレちゃんは口を開く。
「ボクだけ逃げないっすよ。ボクは魔法少女で、皆の仲間っすから。それと、ノワールちゃんから伝言っす。『今度は迷わないよ』だそうです」
クルボレレちゃんの言葉と、ノワールの伝言。それぞれについて考える。
クルボレレちゃんは以前もそうだったけど、何かをしようと行動するときはちゃんと覚悟をしてやってくる。
なんとなくで来る子ではない。危険なのも承知で、彼女は自分に出来ることをとやって来るのだ。
ノワールに関しては、前回のこの魔獣との戦いでの反省を踏まえての事だろう。
あの子は前回、得意の狙撃でのサポートに徹していたが、魔獣と戦うアズールの支援か、シャドウと戦う私達の支援かで迷い、どっちつかずの成果になってしまったことを反省していた。
先ほどの榴弾風の魔法の弾丸も、あの魔獣に何が出来て、何が効果がありそうか、ノワールなりの努力の成果というものだと思う。
2人とも未熟だけど、未熟なりに考え抜いて工夫や行動を起こしているのだ。それに追随、どころか引っ張れないようではこの場にいないアズールにも申し訳が立たない。
「少しムキになり過ぎていたかもね」
「戦術を変えます。主体はクルボレレちゃんの超高速からの打撃です。各自、サポートを」
「無茶は厳禁。ヒット&アウェイの基本は変えないで良いわよね?」
「はい」
何も今までの方法に拘る必要もない。切れるカードはどんどんと切っていけば有効な手段も見えてくるはずだ。
司令塔であるアメティアの作戦に、全員がしっかりとメンタルを立て直す。無茶は厳禁、無理は上等。
無理をこの場で覆して行けば良いだけの話だ。
「ルビー、一つ試したいことがある。メモリーを貸してくれ」
「リオを?私の戦力が落ちるんだけど」
「代わりにこっちのメモリーを使え。斬るなら私の方に分があるからな」
「なるほどね」
フェイツェイとルビーは何やらお互いのメモリーを交換し、大幅に立ち回りを変えてみようという方向らしい。
私も、ここで戦術を切り替えるのはありだろう。
「ガアアァァァアァァァッ!!」
イキシアと水色のメモリーを構え、起き上がった魔獣を視界に入れつつ、私達の戦いは第二ラウンドへと突入した。




