それぞれの魔法少女
「ギャオォッ?!?!」
魔獣の驚く声と同時に、展開した障壁が確実に魔獣を捕らえる。胴体、腰、首、肩、腕、手首、太もも、ふくらはぎ
確実に、逃がさない様に8か所ガッチリと固定し、魔獣はもう少しも動くことが出来ない
「へへっ、流石だなぁ。ウチのチームに入ってくれりゃ、遊撃役のルビーもいるし、最高なんだけどなぁ」
「あら、勧誘は受け付けないわよ?さ、早く倒してちょうだい」
「ちぇ、つれねぇなぁ」
確かに、ここにシャイニールビーが入ればもう生半可な魔獣ではビクともしないような魔法少女チームが出来上がるのだろうが、生憎俺は野良一択。勧誘はお断りさせていただく
早々に断られたアズールが拗ねた様に唇を尖らせるが、その最中でも背負う戦斧に集まる魔力は恐ろしいものがある
「んじゃ、いっちょあがりだ。――あばよ」
跳躍、後に片手で豪快に一閃
それだけで両断された魔獣は当然絶命し、その瞳にうっすらとあった命の輝きすら消え失せる
それを確認してから、俺は障壁を解除。空中に磔にされていた魔獣の遺体がズズンと重い音を響かせながら、床へと落下する。これにて1件落着、まさか街に遊びに来たらこんな目に合うとは
「あー、もしもし?アズールだけど、魔獣の討伐が終わったから処理班に……。は?魔獣の反応が消えてない?いや、でも確かに目の前で死んで――」
俺がため息を吐く横で、魔獣討伐の報告をするアズールから妙な言葉が幾つか聞こえる
何事かとパッシオにも確認をするが、本人は首を振って魔獣の反応は感じていないと言う
機器の誤作動?なんて頭に過ぎった、その瞬間だった。パリンっと音を立てて、吹き抜けの天井部分にあるガラスが割れる音がする
そこから少し遅れて、何かが地面に激突し、数回バウンドするとようやく止まる
「―――――――ルビーっ!!!?!?!」
それが、傷だらけのシャイニールビーだと気付くのに、時間はかからなかった
国から支給された、魔法庁用の折り畳み式の携帯電話。所謂ガラケーを手に取った私は、私達の直属の上司。雛森さんに直接電話を掛ける
【もしもし、朱莉ちゃん?申し訳ないんだけど、今魔獣対応で忙しくて――】
「その魔獣が出た場所にたまたまいます。避難誘導をするので指示を頂きたいです」
【えっ?あ、ちょっと待ってね!?】
市街地のど真ん中に魔獣が出たとあって、多分魔法庁支部の人達はてんわやんわしている筈だけど、今は戦えない魔法少女の私は被害が拡大する前に可能な限り避難誘導などをするのが一番効果的だと思う
でも、この辺の避難誘導先なんて全然知らない以上は、知ってる大人に指示を仰ぐのが一番だ。大人の仕事が増えるけど、現場で頑張るのは私達だち、大人は大人で頑張ってほしいなって勝手に思っておくことにする
【ごめん、今避難所出たから出来るだけそっちに人を誘導してくれる?】
「分かりました」
【とりあえず、ショッピングモールの東棟。そのエントランスホールに人を集めてくれると助かるわ。もうフェイツェイちゃんとノワールちゃんがそっちに向かってるから。アズールちゃん達といっしょに――――っ?!!?】
電話先の向こうで、雛森さんが息を飲んだ声が聞こえる。何かあったのか、と聞こうと声を出そうとした時
「キュルルルラアアアアッァァァアァッァァァアッッ!!!!」
頭上、空の上から金切り声のような耳障りは音が降って来た
不快な、耳を塞ぎたくなるような汚い音
そちらに目を向けると、上空を鳥のように飛ぶ姿が窺える。まだ遠いけど、あれは魔獣だ。しかも大型、飛行種。恐らく、脅威度はAクラス
それが、既に私に狙いを定めている事を私は魔法少女の勘でヒシヒシと感じていた
【朱莉ちゃん!!屋外にいる場合はすぐに建物の中に!!Aクラスです!!】
電話口から雛森さんの悲鳴に近い声が聞こえて来るが、こっちはもうそれに気にかけてる余裕はない
「すみません、雛森さん。捕捉されてるっぽいです」
【――ッ!!ダメ、朱莉ちゃん!!】
「『纏うは灼熱、秘めるは炎。燃えろ、私の心、私の身体、私の想い。炎心転火、――私は炎になる。』」
【逃げなさいッ!!朱莉ちゃん!!】
「魔法少女シャイニールビー。心身燃やして守り抜く……!!」
あまりにも無謀な戦いなのは、私自身が分かっていた