やさしさの意味
アリウムフルールと別れて、私は大きくため息を吐く。
ハッキリ言おう、彼女をただの少女だとばかりだと思っていた。それが対面してみたらこれだ。
意志と芯の強さ、思考の深さ、こちらの心理を読み解く洞察力。とてもじゃないけど私の手に負える相手ではなかった。戦う相手を間違えたと言ってもいい。
この街に多大な出資をしてくれている諸星玄太郎さんのご婦人、光さんと諸星家直系だという翔也さんを相手に退室を願うための舌戦を交わした時と同じくらいの圧力を感じた。
諸星に保護され、そこで教育を受けているという話は聞いていたが、ここまで完膚なきまでに叩きのめされるとは思ってなかった。
「自分がいかにちっぽけな人間なのか、いやでも良く分かるわね」
人としての器の差を感じた。今でこそS級魔法少女なんて言われてるけど、元々は先輩たちの後ろで撃ち漏らした弱った魔獣や小さな魔獣を倒す役割をしてた当時で言えば弱い方に部類される魔法少女だった。
必死に先輩たちの影を追いかけ続けた10年間。長い時間をかけて私はS級魔法少女という称号を手に入れて、世界中で活躍するようにはなった。
でもそれだけだ。力だけじゃ、先輩達には遠く及ばない。あの人たちはもっと強く、もっと優しく、もっと気高い人たちだったと思う。
「あぁいう人が、世界の行く末を決めていくんだよね」
アリウムフルールの目は、先輩たちの目にとても良く似ていた。
覚悟を決めた目、とでもいうのだろうか。力強く輝くその目が背中を押してくれる。言いよどむことなく言い放たれるその言葉はそれだけで味方を勇気づける。強敵に立ち向かう姿はそれだけで希望を感じる。
先輩達は、本物の英雄はそんな人だった。アリウムフルールはそちら側の人間なんだろうなと今回の件で思った。
それに朱莉も影響を受けているのか、少し前にはなかった才能の片鱗のようなものを感じるようになってきた。
以前は碧や千草に及ばないことが多く、引け目を感じている節があったのだけど自信が付いたのか、折り合いがついたのか、訓練場での動きも格段に良くなっている。あれならA級魔法少女と認定されるのは当然だと思うほどには。
アリウムフルールが現れてから、色々なことが凄い勢いで起こっている。10年前、魔獣が現れ、魔法少女が現れた時と同じような大きな何かが押し寄せているように感じている。
それが何かも、果たしてそれが正しい感覚なのかもわからない。
ただ、漠然と動かなければ、そう思っている中でせめて私が直接面倒を見ている後輩たちには何事も無いようにと動いたけれど、結果は私がいかに独善的な人間かというのを思い知らされただけ。
「あぁ、やめやめ!!せめてあの子たちの前ではしっかりしなさい私」
頬をバシバシ叩いて、沈んでいた気分を無理矢理あげる。引っ込み思案は卒業しなきゃ。あの時、私が先輩達に憧れていたように、今は私があの子たちに背中を見せていかなきゃいけないんだから。弱音を吐いてる場合じゃない。
アリウムフルールちゃんには悪いけど、あの子に言われた通り、私は私のやり方であの子たちを守らせてもらう。
あの子の事情も気になるけど、元々どこからやって来て、何を目的に魔法少女をしているのかがわからない正体不明の塊のような少女を庇護下に入れてやるほど、私も懐の深い人間ではない。
ましてや、昔と違って敵は同じ人間。スパイのようなことだって考えなくちゃいけない。
アリウムフルールがそうだとは思わないけど、味方だとも思っていないのが私の本音。
生き残った人たちを、今を戦う後輩たちを守るのが私の役目。先輩達から託された役割をしっかりと真っ当しないと。
定期的に気分が落ち込むたび、言い聞かせていたことを改めて自分の中で反芻する。
私は破絶の魔法少女 ウィスティー。この国で一番強い魔法少女なんだから。




