やさしさの意味
魔法少女達の会合が終わった後、雛森さんと藤子さんは碧ちゃんの病室を出ていく。しばらくは私達も残っていたけど、時間的にも限界が来て、ちらほらと帰り始める。
今日この病室に残るのは雫さんだけだ。翔也さんはまだ第三者なので帰宅する。残念そうにしてたけど、それならさっさと射止めなさいと光さんに叱咤されていた。
「じゃあ、また来るね」
「おう。わりぃけど皆の事を頼む。ウチの次にリーダー頼めそうなのは真白くらいだわ」
「おい、私はどうした」
「お前は戦いになると視野が狭くなんだろうが」
自分の代わりにリーダーを頼めるのは私だって碧ちゃんは言うけれど、少し買いかぶり過ぎじゃないかな。一応、一番年上になる千草が自分じゃないのかって言うけど、碧ちゃんの手厳しい指摘を受けて黙っちゃった。
千草、どっちかと言うと猪突猛進だもんね。
「ばいばーい」
「あぁ、またな」
墨亜と手を振り、他の面々と一緒に病室を出る。朱莉や紫は30分ほど前にはすでに退室済み。あの子たちは保護者同伴じゃなかったしね。ウチの使用人達が責任をもって送って行っているらしい。
私も変身を解いているし、後は碧ちゃんの容態の回復を待ちながら情報収集の日々になると思う。
何せ『ショルシエ』は近々もう一度私達とあの魔獣を戦わせるつもりを匂わせる発言をしていた。
それが一体いつになるのか、どういう手段を使うのかは分からないけど、それが起こるのを待つんじゃなくて、警戒と情報の収集をしなければいらない犠牲が出る可能性だってある。
そう言うことが起こらないように気を引き締めていかないと。そう思いながら病室からエレベーターの方へと向かう最中。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
「ん?あぁ、分かった」
「一人で大丈夫?」
「そこまで子供じゃないですー」
視界に入ったトイレのマークに身体が思い出したかのように行けとの指示を出す。特に我慢する理由も無いし、千草や光さんにからかわれつつトイレへと向かう。
特に何の変哲もない女子トイレで用を足し、手を洗ったところで後ろから声を掛けられた。
「君がアリウムフルールか」
「っ!!」
聞き覚えのある声。少し前まで同じ部屋で今後の方針を話し合っていた女性の声が背後から聞こえ、びくりと肩を揺らし、咄嗟に『イキシア』へと手を伸ばす。
その様子を見て、女性。東風 藤子さんは違う違うと鏡越しに手を振って敵意は無いことを身振り手振りで応答していた。
「S級魔法少女という立場の人が随分コソコソしてるのね」
「すまない、こんな形で接触されるのは君も不本意だったと思う。ただ、君と個人的に話をしたかったのと、とにかくガードが固くてね。強硬させてもらった」
申し訳なさそうに頭を下げる藤子さんに私は肩を落としてから振り返る。
一体、一介の野良魔法少女の私に何の用なのか、聞く必要はあると思う。
理由もなく興味本位で接触したなんていうなら酷く悪趣味な人だけど、とてもそういう人には思えない。何かちゃんとした意図があって私に個人的な接触を図ってきたはず。
「まずは碧を助けてくれてありがとう。朱莉の時もそうだ。君がいなければ、私は大切な後輩たちを失うことになっていた。感謝する」
「それはもう何回も聞きましたよ。そのことじゃないですよね?」
その感謝の言葉は既に再三聞いたもので耳にタコが出来てしまう勢い。後輩を助けてくれたのを感謝するのは良いけど、限度と言うものもある。こちらもそろそろうんざりしてきてしまう度合いだ。
そんなことが、いやそんなことと言っていいわけではないんだけど、それよりももっと重要な話があるのならさっさと口にしてほしい。私だって、人を待たせている。
私があまりにも遅いと不審に思って、ここまで顔を出すことだろう。それで困るのは藤子さんの方のはずだ。
「うっ、すまない。単純に二つの事柄についてだ。碧の『固有魔法』についてと、君から先日提出されたメモリーの処遇について、私からの提案とお願い、だな」
「提案とお願い、ね」
つまり魔法庁を介さない。本当に個人的な約束を取り決めようということだ。なんとも面倒な匂いがしてきた。
所属する組織を介せないということは非合法か、組織の意向に逆らうものか。そのどちらかだというのは想像するに容易い。




