やさしさの意味
そこからしばらく時間が経ってようやく朱莉と紫が落ち着いたころを見計らったように、病室のドアがノックされる。
お袋が返事をして入って来たのは諸星三姉妹の面々と親の光さん、それとメイドの美弥子さんに舞もいる。
「あら、来てくれたの?」
「俺も心配ですから。事情はこいつらから聞いてますんで」
最後に翔也さんが入って来て、広い病室も手狭に感じるくらいの人数にはなった。魔法少女全員に、その親や関係者数名ってなれば、そこそこ広いこの病室もそりゃあ狭くもなるわな。
てか、翔也さんが来たのは意外だ。ここに来れたってことは魔法少女関係者として通されてるってことだからな。ウチがいるのは病院の上の階にある特別な一画。
魔法少女が治療を受けた際にはここに担ぎ込まれることになってるから、防犯やらなにやらの事を含めて、名目はVIPルーム。実際は政府所属や、その関係者のための病室が並んでいる。
前に助け出した、千草と真白のクラスメイトもここに入院している。
「ちょっと、先輩には挨拶はないの?」
「あー、はいはい。ご足労ありがとうございます、せ・ん・ぱ・い」
「まぁまぁ二人とも。雫さんもそんな邪険にしないでください。叔母さんも忙しいところを合間を縫って来てくれたんですかな」
真っ先に翔也さんに挨拶して光さんを無視したお袋に、光さんが抗議してるけどお袋はなにやらまだヘソを曲げているらしい。
聞いた話によると、この前のパーティーで良いようにされたのをまだ根に持ってるだとかなんだとか。
翔也さんに言われてようやくその態度を多少は改めてるけど、まだまだ個人的には不満な様子。
お袋、一度ヘソを曲げると長いからなぁ。
「思ってるより元気そうじゃないか」
「当たり前よ。誰が治療したと思ってるの?」
「碧おねーちゃん、痛くない?大丈夫?」
「碧先輩、お見舞いの品っす。皆で食べるようにってママがくれたっすよ」
親二人と翔也さんがやいのやいのと騒いでいるのを尻目に、諸星の三姉妹と舞がこっちにやって来て話しかけて来る。
因みにウチの両サイドは紫と朱莉にロックされている。痛い上に動けない身体が更に動けなくなって辛い。
「舞様、フルーツの方はわたくしの方が」
「じゃあお願いするっす!!」
舞がわざわざ持って来たのはオレンジ、か?ちょっと形が変わっててよくみる真ん丸でデカいんじゃなくて、少し小ぶりで水滴を少しつぶしたみたいな形になってる。
なんか変わった品種なんかね?心なしか美弥子さんの目が輝いて見えるのは良いもんだって証なのかもな。
「痛むところはある?治療するわよ?」
「全身いたるところだよ。腫れっつーより筋肉の炎症に近く感じる。てか、良いのかよ医者に黙って治療して」
「むしろ治癒魔法を指導する側よ。先生からも是非って話になってるから任せて」
勝手に治療して良いもんなのかと聞いてみると、真白がふんぞり返って返事をして来たので生返事で返しておく。
そういや、魔法庁所属の医療班がアリウムから指導を受けるって話になってるってのは小耳に挟んだな。
こと医療に関してはべらぼうに厳しいらしくて、隊員たちが震えあがってるなんてのを医療班リーダーの那奈さんが言ってったっけか。
まぁ、確かに一回だけ思いっ切り怒鳴られたこともあったっけか。あの雰囲気で指導されるってなると、小さな鬼教官ってのがありありと目に浮かぶ。
「さて、とりあえず丸一日寝てたから、細かいチェックも含めて色々やるわよ。とりあえずレントゲン撮るところから始めるからレントゲン室ね。事前に一度撮ってはあるけど、精密検査も含めてまとめてやるわよ」
「まさか歩けと」
「まさか、念のために車椅子よ。ただし多少の痛みは無茶した罰として受けておくべきね。」
前言撤回。こいつ素で結構ドSだわ。全身痛いって言ってるのに移動させるとか鬼か。
で、嫌々してたら、さっさと動くと背中をぶっ叩かれた。仕方なく呻きながら渋々動くと骨はくっ付いてるはずだと言われたけどそういう話じゃあねぇんだわ。
ケラケラ笑ってる千草はあとで覚えてろよ。




