正体不明の魔獣を調査せよ
投擲された一本目が地面に突き刺さる。直後爆ぜるようにして棘を構築していた燃える花弁の障壁が炎を噴き上げながら辺りに吹き散らばる。
熱量で焼き貫いた後に中で爆ぜて内側から焼き尽くす算段だ。我ながら凶悪なモノを考えたものだと思う。
「物騒なモノを……!!」
「お互い様でしょ――っと!!」
一本目も外すつもりは無かったが向こうもそう簡単に当たってはくれない。避けたシャドウが土の弾丸を飛ばしてきたのを残っている花弁の障壁で燃やし落とし、今度は棘を投げるのではなく横薙ぎに振るう。
元が巨大だ、たったこれだけの動作で広い範囲をカバーできるのは強みだろう。
欠点は巨大さゆえに挙動が悟られやすい事か。
でもそれは相棒の協力によって色々やりようはありそうだし、いくつか他の対応策も簡単にだけど思いついた。
「パッシオ!!」
「ハイハイっと!!」
周囲に他の魔法少女もいないのでいつも通りに会話で合図を出すとすぐにパッシオが炎弾を数発放って爆発させる。
意趣返しも込めた足止めと煙幕代わりの爆発でシャドウの足を止めさせるとすぐに私は巨大にしていた棘を数十本の棘の形に再構築する。
それを素早く爆発した中心、シャドウがいるはずの場所を囲むようにして、撃ち放った。
【Memory Boost!!】
だけど、それを丸ごと吹き飛ばしながら巨大な爬虫類の腕のようなものが私たちに襲い掛かる。
パッシオが私のストールを咥えて慌てて飛び上がったのでなんとか事なきを得たが、不意打ちに不意打ちで返された。
やはり油断ならない相手だ。シャドウが私のことを決断と実行が早いと評価していたが、あちらも似たようなものだろう。
陥った状況の中で自分が持っている手札の中から素早く必要なカードを切れる早さはこちらも厄介だと思う。
それにお互いに様々な状況に合わせて大量の策を講じておくタイプ。アレと同じタイプの人間だというのは少々不服だけど、そんなことに文句を言っても仕方がないか。
「けほっ、出来ればもうちょっと優しく扱って欲しいんだけど」
「無茶を言わないで欲しいな。ドレスを咥えるわけにもいかないでしょ?」
ストールを咥えられているので自然と首が締まる。出来ればもうちょっとダメージの無い緊急回避方法を取って欲しいけど、パッシオの言う通りドレスを咥えられても困るし、だからと言って素肌を触られるのも気恥ずかしい。
無茶を言うなと呆れ顔で言われるけど、乙女心は複雑なのである。
「全く、一人づつもと思ったがやはり貴様が一番厄介か」
「各個撃破は妥当な判断でしょうけどね。タダでやられるほど弱くもないわ」
「それもそうだな」
妙に楽しそうに笑うシャドウを訝しむけど、当の本人は特に気にする様子もない。
何が楽しいのかとも思うが、元々【ノーブル】に所属するような相手の感情などはかり知るのは難しいか。
それなりに長い時間、それともそう思ってるだけで短いのかは体感ではイマイチわからないけれど、それでもここまでお互い有効打も無い。
均衡した戦いが続く中でどうにか戦況を動かしたいのはこちらもむこうも同じはず。
さて、どうするかと再び思考を巡らせていると。
【Memory Boost!!】
上から響いた電子音声と、周囲にずっと渦巻いていた砂塵が暴風に吹き飛ばされ、渦巻く暴風を身に纏いながらシャドウの脳天を狙って垂直に落ちて来たフェイツェイが地面を抉ったのち、素早く身を翻してこちらに飛んできた。
「すまない、遅れた。あの砂塵が結界のような役割も果たしていたようでな。中に入るのに手間取った」
「ありがと。正直拮抗し過ぎてて攻めあぐねてたのよ」
「きゅいきゅい」
ここで再びフェイツェイの合流は心強い。暴風の勢いで体勢を崩していたシャドウに再び相対し、私たちの戦いはさらに苛烈を極めていった。




