正体不明の魔獣を調査せよ
のほほんと、ベッドに転がりながらスマホ型魔法具『イキシア』の画面をタッチしながらハマり始めたソーシャルゲームの日課を熟す。
今日の勉強や訓練は既に終えて、夕飯もお風呂も済ませた後の完全な自由時間だ。
勉強も訓練も根を詰め過ぎないように、『計画的に短時間で効率よく』を最近は光さんが中心になって徹底されている。
何故かというと、私のやりすぎ癖がとうとうバレたからに尽きる。
学校の勉強もさることながら、気になった医学知識や魔法に関する勉強を机に毎日深夜になるまで齧り付いてやっていることが、たまたま部屋を訪れた美弥子さんに見つかった後、その報告を聞いた光さんが私のやりすぎが割と常習であり、訓練でもそういった限界を限界だと思わない傾向があると判断した。
私は全然平気だと何回も抗議したのだけれど、最後まで聞き入られることはなかった。
朱莉みたいにぶっ倒れるまではやってない。ぶっ倒れる一歩手前で止めてるから大丈夫だと言ったら本気の拳骨が飛んできたのは記憶に新しい。
それ以降、口を酸っぱくして訓練は十三さん主導は変わらず。勉強時間に関しても、時間設定が設けられた。
机に向かって勉強していいのは2時間まで、というのが私に設けられた勉学へのリミットだ。
もちろん、ベッドに本を持ち込んで読みふけること自体は構わないとされたけど、ペンを持って書き写したり、深夜遅くになるまで本を読みこむのはNGにされた。
「それだけ毎日詰め込んでたら、確かにペンタリンガルになるのも納得は出来るわね」
というのが光さんの言葉である。むぅ、勉強くらい良いじゃないかと今でも文句を言うけれど、限度があるとは全員から言われて少しへこみ気味。
「飽きないねぇ。そんなに面白いそのゲーム」
「うーん。グラフィックも音楽もシナリオも普通にハイクオリティ。ゲームシステムが存外複雑でやりこみ要素も充実してるんだよね」
「なるほど、真白向きってわけだ」
枕をわきの下に敷いてぽちぽちしていた私の背中をちょこちょこと歩きながらパッシオが『イキシア』の画面を一緒になってのぞき込む。
映ってる画面はちょうどマルチバトルのボスの戦闘中で、スマホゲームながらに迫力のあるエフェクトが掛かっている。
因みにこのボスのBGMが今のとこと一番好きな曲だ。
「私向きってどういうこと」
「コツコツやるっていうのがね。僕はすぐに飽きちゃいそうだなぁ」
そういって私の頭の上に伏せの体勢でパッシオも寝そべる。重くはないけど鬱陶しい。
自由に動けないんだけどと文句を言うけど、抱き枕にされるよりはいいと思うよと反撃された。
ぐぬぬ、最近抱き枕にしてることを地味~に根に持ってるんだよね。
「あーあー、今頃碧ちゃんは翔也さんとフレンチディナーかぁ」
「正確には雫先生と翔也さんのディナーに碧ちゃんが付いていくのが正しいけどね。上手くいくと良いね」
「ねー」
こうやって私が怠惰を貪っている間、碧ちゃんと雫先生。それに翔也さんが人生を賭けたディナーをしていると思うとそっちが気になり始める。
碧ちゃんも雫さんも、翔也さんも良い人だ。今日のディナーデートで全てが決まる訳じゃないけど、上手くいくかいかないか、それが決まるのは今日の翔也さんに掛かっていると言って過言ではないと思う。
うちで準備をしていた翔也さんはそれはもう落ち着きがなくて、光さんにしっかりなさいと背中を叩かれている始末だった。
最終的には帰って来た玄太郎さんと少し話し込んだ後にようやく腹を据えられたといった感じだったけど。
若手でやり手の社長と言えど、恋愛ともなれば年相応ということらしい。こればっかりは年かさと経験がモノを言いますからねと十三さんが笑っていた。
翔也さん、女性を口説いて回ってたけど、本気はこれが初めてだから、キョドってるってことなのかなぁ。
私にはイマイチよくわからないなぁと考えたところで、またこの前のパーティーの出来事が脳裏をよぎってぶんぶんと頭を振る。
だから、この前のそれはそういうことじゃないってば。そう言い聞かせて、また『イキシア』の画面を眺めながらゲームを操作する。
学校で皆に茶化されたせいで変なイメージが付いちゃったよ、もう。
文句を言おうにも千草は魔法庁に用事があるって言ってまだ帰ってこないし、一体何をやってるのやら。
「真白お姉ちゃん!!」
頭の中で文句を言いながら頭の上のパッシオをどかすようにして寝返りを打ったところで、バンッといつになく乱雑に開かれた部屋のドアと墨亜の緊張感のある声が私たちの耳に飛び込んできた。