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お袋とウチと親父候補

お袋からこれでもかと叩き込まれたマナーは付け焼刃だったけど、それでも翔也さんには褒められるくらいのモノにはなってたらしい。

ガラにもなく照れたウチに、お袋が茶化す一幕があったりしながらフレンチのコース料理に舌鼓を打つ。


一番最初に来た、ビスケットみたいなのになんかのクリームとサーモンがのったのがアミューズっていうコース料理が始まる前の前座みたいな料理だ。

お袋にはお通しみたいなものだって言われたけど、そのお通しもウチは良く知らない。外食も少なかったしな。


とりあえず一番最初に出て来る料理ってことで覚えてる。


この料理も一口で食べられるくらいの大きさなんだけど、食べやすいし美味かった。

あのクリームみたいなのは多分チーズだと思うんだけど、ふわふわなのに口の中に入れると溶けて脂の多いサーモンを食べやすくしてくれるし、塩っ気のある下のビスケットを柔らかくしてくれる。


それがちょうどいい感じでパクパク食べられるんだ。本音を言うともっと食べたいけど、これからたくさん料理が出てくるから楽しみにしてくれって言われたので行儀よく待つことにする。


今日の主役はお袋と翔也さんだしな。あんまりがっつくのも良くねぇよな。


次に運ばれてきたのはオードブル。日本語で言うと前菜だ。正式にはフレンチのコース料理ってのはこのオードブルから始まるもんらしい。

アミューズってのはホントにコースの前座ってことだ。お袋と翔也さんなんかは食前酒ってのと一緒に楽しんでた。酒のつまみにも良いらしい。


で、この前菜は二品出た。一品はスモークサーモンに西洋わさびのソースをかけたやつと、カニとネギを使ったタルトだ。


詳しいメニューの名前までは覚える余裕がなかった。何せ本格的なフレンチを食べるのなんて生まれて初めてだし、どれもこれも凝ってる。

メニューの名前なんかより、お袋の面目を潰さないためよう、如何に叩き込まれたマナーの通りに食べられるかの方が今のウチには重要なこと。


結果として、最後までメニューの名前を覚えるまでには気が向かなかった。


次はスープ。フレンチでのスープの王道がコンソメスープなんだとか。他にはポタージュ。明確に分けるなら透き通ってるかとろみがあるかで分けられるらしい。


今回は王道のコンソメスープ。コンソメつっても、家で使うような固形コンソメを溶かしたようなもんじゃなくて、本当に野菜とか牛すね肉とか鶏がらだとかを何日も煮込んで作ったブイヨンっていう西洋風の出汁を使った本格的なものだ。


当たり前だけど、めちゃくちゃ美味かった。具は少ない。無いって言ってもいいくらいの少しの野菜が入ってるくらいだったけど、こいつが全く馬鹿にできない代物だった。


濃い、ってのがウチの少ない言葉のポキャブラリーってやつから辛うじて絞り出せたものだ。

シンプルイズベストってのもかな。とにかく美味い。


このまえ、このホテルの屋上で飲んだインスタントのスープの味が陳腐なものに思えてしまうくらいの美味さに、ウチは目を丸くして美味いって言葉の一言すら出せなかった。


お袋は「良いシェフじゃない。昔、家で飲んでたモノよりずっと美味しい」なんて余裕綽々だったのは育った環境の差が露骨に出てるなぁと感じる部分だ。

これよりランクは下がるとはいえ、お袋の実家ではこういうのが当たり前に出てたのかと思うと、お袋の実家も結構な金持ちだったことが想像出来る。


なんでそんな金持ちの家を飛び出したのかはウチにはわからないけど、何というか今までのウチの価値観が次から次へとハンマーでぶん殴って壊されるようなことばかりだ。


「ここのコンソメスープは変わらず絶品だね。親父に連れられてよく飲んだもんさ」


「あら?お家自慢?」


「ここ10年でのし上がった新興の一族に昔の自慢話なんてないよ。苦労話なら山ほどあるけどね。それに、家柄で言えば雫さんのご実家の方が由緒正しい、古くからある家柄じゃないか」


「ふん、あんなの中身の腐りきった大木よ。外側ばかり綺麗で、中身なんて当の昔に朽ち果ててるもの」


ふん、と鼻を鳴らしながらそっぽを向いた雫さんにしまったなと翔也さんは困った笑みを浮かべてウチをチラ見する。

フォローをしてほしいってことか?ウチもお袋の生い立ちとかには詳しくねぇんだけどなぁ。しょうがねぇ。


「このホテルってどのくらい昔からあるんだ?」


「ここ?確か元々は古い旅館だったんじゃなかったかしら。それがホテルに建て替えてって聞いたけれど」


とりあえず基本的な手段として話を逸らすって方法をとってみると、お袋が乗った。

よし、と見えないようにガッツポーズをしながら翔也さんにアイコンタクトをするとパチンッとウィンクが返ってくる。


後でお礼を期待しておくとする。


「旅館としても格式高かったらしいですよ。その名残にこのホテルには大浴場と貸し切りの露天風呂があります。厳選かけ流しの天然温泉ですから、そちらもぜひ」


「あら、良いわね。碧もお風呂は好きだし」


「後で入りに行こうぜ」


すっかり話を逸れて、さっきの不機嫌がどこかにいった様子のお袋に翔也さんと二人でホッと息を吐く。

お袋気難しいから大変なんだよ。じゃじゃ馬だぜ、翔也さんよ。


年末年始、作者旅行のため更新不定期です。

出来るだけ更新するつもりではありますが、すみませんがよろしくお願いします。


12月26日辺りから多分不定期になると思います。なにとぞ。

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[一言] 翔也頑張れ
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