お袋とウチと親父候補
時間もあまり無いので朱莉と早々に別れて、団地の階段をお袋に後ろにくっ付いて歩いていく。
こうして見ると、お袋の立ち姿というか歩く姿勢ってめっちゃ綺麗なんだよな。ウチは本当に雑というか、がに股で歩くとか普通だし、多分遠目から見たら男子だと思ったとか言われる。
同じようにお袋も雑でガサツな性格なんだけど、こうして階段を下りる姿勢とか歩く時の立ち振る舞いとかはすげぇ綺麗だなって思う。
「どうかした?」
「いや、別になんでもねぇけど……」
「そう?珍しく静かだから、あんまり緊張しなくても大丈夫だからね」
不意に振り向いたお袋に何でもないと答えながら、こっそりお袋の歩き方とかを真似てみる。
ウチは趣味も口調も男っぽくて、その方がかっこいいって感じることが多かったんだけど、お袋の姿を見てそれが少し変わったような気がする。
綺麗なのも、カッコいいんだな。強いのだけがカッコいいってわけじゃなく、綺麗でバッチリ決まってると堂々としてカッコよく見える。
今、ウチの目にはお袋がめちゃくちゃかっこよく映っていた。
「流石は私の娘。サマになってるわよ」
こっそりお袋の真似をしていたのをお袋は気付いていたらしく、そう言ってくる。
「茶化すなよ。本物には敵わねぇっての」
「そうね、せめて口調もネコを被れるようになっておきなさい。色々使えるわよ」
不敵に笑うお袋が今度は恐ろしくも見える。女の武器は一通り身に着けろってことか?
ウチには無理だと思うんだけどなぁ。
女のウチをウチ自身が上手く想像できない。いや、ウチは女なんだけどさ。女子っぽいことしてるウチが想像できないって意味で。
「お待ちしておりました。村上様」
「お世話になります」
団地の階段を降り切り、駐車場まで出て来たところで待っていたのは黒の高級車。どうやらお迎えの車らしい。
流石にあのパーティーに来てただけあって、相手は相当な金持ちらしい。
諸星家の千草たち三姉妹といい、お袋といい、今回のこといい、何かと金持ちに縁が最近あるような気がするな。なんて思っていると、運転手っぽいおっさんに見覚えがあることに気が付く。
「あれ?アンタ確か……」
「先日ぶりにございます、碧様。本日も運転手を努めさせていただきます田所と申します」
深々とお辞儀をされたから、反射的に返した後にニッコリとした笑顔を見せているのはやっぱりこの前、皆で河川敷で遊んだ時に運転をしていたおっさんだ。
諸星家お抱えの運転手で、普段から千草たちの送り迎えとかをしているって聞いたけど、なんで諸星の関係者がここにいるのか疑問を浮かべる。
諸星の専属じゃないってことか?いや、でもこの前は専属みたいな話を聞いてたしな、なんて考えているうちに車内に案内され、ふかふかの座席に座ると少ししてから車が動き始めた。
「そういや、お袋の彼氏候補ってどんな人なんだよ」
「そうね。まだほぼ初対面なんだけど、第一印象で言うならめちゃくちゃな人ね」
「なんだそりゃ」
もうじき本格的な冬になる時期の19時前ってのもあって、外はもうずいぶん暗くなっている。さっき外にいた時もそうだけど、ワンピースドレスの上に羽織ってるカーディガンじゃあちょっと心もとないくらいに寒くもなっている。
そんなことを車の外を眺めながら実感しつつ、そういえば聞いてなかったお袋の彼氏候補について聞いてみたけど、全く参考にならない回答が返って来る。
むしろ大丈夫なのかよ、それ。
「そんな顔しなくても大丈夫よ。頭がよく回る人の特徴みたいなものでね。普通の人には理解できない結論の出し方なのよ」
「頭のいい奴が何考えてるのかよくわかんねぇってことか?」
「まぁ、大体あってるわ。その典型みたいな人よ」
「変人じゃねぇか」
ウチの言い分にお袋がぶはっと噴き出して笑う。変人ってことは否定しないらしい。
いよいよ大丈夫なのか不安になって来たぞウチは。お袋が変な男にたぶらかされてるのを目の前で見たくないんだけど。
「ま、その辺りはアオの目でしっかり見極めて頂戴。アオが嫌だって言うなら私もこの話は無かったことにするつもりだから」
「責任重大だなぁ」
お袋のことなんだからお袋が決めればいいのにと思いつつ、ウチは相手が一体どんな奴なのかを想像を膨らませておく。
車は気が付いたら見慣れた住宅街じゃなくて、この街の中心地にある中央区へと入っていた。




