お袋とウチと親父候補
二日後、学校も終わりいよいよお袋のデートにくっ付いていく日だ。
正直、気が重い。ウチの目の前で知らないおっさんとウチの知らない顔を見せるであろうお袋がいちゃつくのかと思うとちょっと萎えるし、何というか自分の居場所がないような気がしてならないし。
ホント、なんて言えば良いのかウチ自身もよくわかってないんだけど、時間が経てば経つほどモヤモヤするというか、良い事なんだけど妙に不安な気分をウチは感じていた。
「よし、これで準備OK。結構いいお店だから、マナーには気を付けるように」
「わかってるよ。もう耳にタコが出来そうだぜ」
大人のデートってのもあって今晩行くお店は中々にいいお店らしい。じゃなかったらあんなスパルタでテーブルマナーを叩き込んでこないわな。
久しぶりにモノを覚えるのにひぃひぃ言うことになった。ウチは覚えるのは得意だけど、やっぱガサツで適当だから、静かに丁寧にってのが性格上どうしても苦手で、お袋には何度も注意された。
一応、二日で及第点はもらったから後は本番でヘマしないようにしねぇとな。ウチのせいでお袋がフラれたりしたら嫌だし。
「飯食いに行くのも、マナー覚えるのも良いんだけどよ。服はどうにかならなかったのかよ。ひらひらしてて落ち着かねぇんだけど……」
「たまにはスカートも着なさいな。アンタ綺麗な顔してるのにオシャレにとんと無頓着なんだから」
「それはお袋もだろ~」
「私は必要とあればおしゃれもするわよ。時と場合で使い分けられるようになっておきなさい。それにそんな不安そうな顔しなくても似合ってるから大丈夫」
似合ってるとか似合ってないとかじゃなくて、このドレスみたいな恰好が落ち着かないんだって言ってんだけど、お袋は聞く耳を持ってくれない。
学校の制服は流石にセーラー服だからスカートだけどよ。スカートの下にはいっつもハーフパンツ穿いてるし、ひざ丈のワンピースドレスなんてこっぱずかしくてしょうがない。
化粧もしてるし、普段はぼさぼさにしてる髪も今日はお袋がしっかり梳いて、なんか機械を使って毛先をくるくるにしたりされて、見た目だけならすっかり女の子だ。
恥ずかしい。こんな格好したことないし、しようとも思ったことないし知り合いにはあんまり見られたくない。
「そろそろ時間ね」
「うー」
鏡の前で顔を赤くして唸ってるウチを他所に、めかしこんで持ち前の美人を前面に押し出しためちゃくちゃ綺麗なお袋が時間を確認すると、ウチの首根っこを引っ掴んで玄関まで引きずられる。
この格好で外出るのが恥ずかしくなって来た。やっぱ行きたくね~~~~。
ずるずると引きずられて、いやいやと少しだけヒールのついたパンプスっていうの?を履いて二人で玄関を出ると、すぐにバッタリと見知った顔に出くわす。
「あら、朱莉じゃない。こんばんは」
「こ、こんばんは。お出かけ、ですか?」
「えぇ、ちょっとね」
そこにいたのは朱莉だ。部屋着で近所のコンビニのビニール袋を片手にきょとんとしてる様子も珍しいもんなんだけど、それよりも普段は絶対にしない恰好をしてる。団地には似合わないカジュアルドレスに身を包んだウチら親子の方が、この場では絶対に浮いている自信がある。
「なんだよ」
「まだ何も言ってないわよ。……とりあえず」
こちらをじっと見る朱莉の視線に、顔が熱くなるのを感じる。よりにもよって朱莉に見られるとは思ってもなかったし、逃げ場もないからどうしようもなく、視線を逸らしながらスカートの端を所在なさげにつまんでいると、カメラのシャッター音とフラッシュが焚かれた光が団地の踊り場に一瞬輝く。
「お前、後で覚えてろよ……」
「良いじゃない。似合ってるわよ?」
「この子ったら恥ずかしがってばかりいるから。今度紫と一緒に買い物にでも行ってきなさい。スカートとか可愛げのある服、少しは持っておいたほうが良いわよ」
「勘弁してくれ」
恐らく数分後には魔法少女のグループチャットに流れるだろうウチのドレス姿の写真にげんなりしつつ、お袋の言葉にも頭が痛くなってくるのだった。




