気が付いたら
あれ以降、パーティーの進行はつつがなく進み、大きなトラブルが起きる事もなく無事閉会となった。
何も起きないのは良いことだ。起きてからの迅速な対応が評価されがちだけれど、何も起きなかったという未然に防ぐことこそが最も警備、主催に求められる正しき評価であり、最高の仕事だろう。
その点において、警備と運営に携わった人達に感謝をお礼を言いたいところだ。
因みに、私に対して暴行未遂を行った男は警察の方に静かに拘束され、身柄を別室に移されたらしい。
その場で事情聴取等が行われ、敢えなくお縄になったとか。
彼は欧州では比較的大きく発展した街を治める家系の一人息子だそうで、じきに訪れる代替わりへの勉強と挨拶にと、送り出されたんだとか。
残念ながら、結果としては酷い出来が周囲に知れ渡ったという凄惨なものになってしまったけれど。
親の前では良い子に振る舞い、他人の前では尊大、横暴に振る舞う二枚舌な性格だったようで、親の監視を離れ、自分は偉いと勘違いした可哀そうな結果がアレ。
親の権力は自身の権力ではないというのに、まぁクライス並のマヌケは探せば案外存在してしまうというのが現実、なんだろうね。
「……しろちゃん。真白ちゃんってば~」
「んえ?」
それが数日前のこと、盛大に開かれたパーティーを終えて日常へと戻った私は普段通り学校に通う日々を過ごしていた。
光さんや玄太郎さんはまだ色々やることがあるみたいでバタバタしているけど、子供の私たちは今のところ蚊帳の外だ。
「移動教室。早くしないと遅刻になっちゃうよ~」
「えっ、あっ?!」
時計を見ると15分ある休憩時間は残り5分。もう周囲のクラスメイト達はとっくに移動を始めている中、私だけがボーっとしていた。
次の授業は化学の実験。授業をやる化学室はそこそこ離れているというのもあって、急がないと本当に遅刻になってしまう。
「ごめん!!行こっ!!」
「良いって良いって、早く行こうぜ」
「だな」
手早く必要な筆記用具と教科書、ノートを取り出して準備完了。待っていた美海ちゃん、優妃ちゃん、千草と一緒にばたばたと教室を駆け足で出ていく。
ちょっとはしたないけど、授業に遅れるよりはいいよね?
「こらー!!廊下を走るなー!!」
「ごめんなさーい!!」
「しっつれいしまーす!!」
早速、廊下をたまたま歩いていた先生に注意されるけど、私たちはそのまま走って廊下を駆け抜けていく。
化学室は別館で遠いのだ。あと3分くらいで着かないといけないので、走らないとどうしても間に合わない。
「み、皆速い……!!」
そしてこういう時思い知らされるのが、この小さな体が如何に運動をするのに不向きかということ。
美海ちゃんは160㎝くらい、千草が170㎝ほどでバスケ部の優妃ちゃんに至っては175㎝くらいの身長らしい。
特に体格に恵まれた後半二人に対して、私の身長は146㎝。最大身長差はものさし一本分の30㎝近くになる。
そうなるともう、根本的に足の長さが違う。一歩の大きさがてんで違うということは、走るスピードも当然違う。
結果として、筋力もまだまだ足りない私は回転力でも追いつけず、みんなから置いて行かれるという構図が出来上がる。
「ありゃ」
「あー、真白ちゃん足遅いもんね~……」
魔法少女をやっていると忘れがちになるけれど、私の身体能力の基本スペックは柔軟以外底辺のそれである。いくらトレーニングを始めたからといって2ヶ月そこらで大きな変化がある訳もなく、精々小さくて力も弱い割には器用に動けるというだけ。
体育の授業でトラック競技でもしようものなら、周回遅れ間違いなしのだ。
「まってー」
「はぁ、仕方ない」
皆がビュンビュン走ると表現するなら、とてとてが妥当な表現の私の様子に見兼ねた千草に抱っこされて運ばれることになったのはきっと正しい選択。
遅刻は何とかなった。ギリギリセーフで。
流石お姉ちゃん、頼りになるね。えへっ。