諸星家主催のパーティーにて
教えてもらったソシャゲは一応、RPGに分類されるゲームらしい。といっても自分でキャラクターの移動を操作するわけではなく、プレイヤーが操作するのは戦闘画面でのスキル使用やストーリーを進めた時の選択肢くらい。
この選択肢もどうやらセリフの差異がある程度で、シナリオに変化があるわけではないらしい。どちらかというと、バトルの要素があるノベルゲームといった側面の方がシナリオ的には強いみたいだ。
ただ、美麗なイラストや豪華声優陣を使ったフルボイスのシナリオ。定期的に開催されてるイベント、マルチバトルなどのやりこみ要素等々、据え置きのゲーム機に劣らないくらいのボリュームがあると朱莉ちゃんは一押ししているゲームだった。
「えーっと、こういう時はこのスキルを使って……」
ゲーマーな朱莉ちゃんが一押しするだけあって、こういうゲーム初心者の私も結構息抜きに楽しんでいる。
朱莉ちゃんは流石というか、かなりやりこんでいるみたいで見たこともないようなアイテムや装備をたくさん持っていた。碧ちゃんと紫ちゃんいわく、かなりの額の課金をしているらしい。
自分で稼いだお金だから、こっちが何か言う権利はないけど無駄遣いはほどほどにね?
「おっ、勝った勝った」
シナリオを進めながら時間を潰せば、そのうちパッシオが戻ってくるはず。それまで気を紛らわせることくらいは出来るだろうという打算も含みながら、ゲームを楽しんでいると。
「Hey girl.(よう、クソガキ)」
頭上から不意に声をかけられ、顔を画面から上げる前に腕を掴まれ無理やり上へと引き上げられた。
右肩に突然全体重がかかり、その痛みで声が上がりそうになるがダンッと壁際においやられ、強かに身体を打ち付けられたことで声も引っ込んでしまう。
「How polite of you. Is that a courtesy of your country?(ご丁寧にどうも。これがあなたの国の礼儀なのかしら?)」
「What a foul-mouthed brat, I'll teach you what courtesy is.(口が達者なガキだ。俺が礼儀を教えてやるよ)」
薄暗い会場でも、ここまで近づけば相手が誰なのかは察することが出来る。
檀さんとの自己紹介に割り込んできた勘違い野郎だ。
クライス並みの馬鹿だとは思ったけど、よもやここまで馬鹿だとは思わなかった。どう考えても礼儀知らずはお前だ。一体どこの誰なのかを問い詰めたいところだ。
と強がっても正直この状況は良くない。体が震えてるのがわかる。心をを奮い立たせても恐怖で身が竦んでいるのがわかる。それが相手に伝わっているかはわからないけど、少なくとも体格差は圧倒的。
こっちが魔法少女に変身するくらいしか打開策が浮かばないけれど、いったいどうやって切り抜けようかと焦る思考を努めて冷静に巡らせようとしていると。
「Could you stop acting violent toward my princess?(僕のお姫様に乱暴しないでくれるかい?)」
「っ?!」
「きゃっ」
また新しい声が、正面に立つ男の後ろから聞こえてきたと思うと私の腕を掴んでいたとその手をひねり上げ、私を離させる。
突然のこと続きで何の準備も出来てなかった私は、そのまま床にドサリと落ちると関節をキメられたのか痛みで蹲る男を呆然と眺めることになる。
「こっち」
「わっ、うひゃあ」
情けない声をあげながら、座り込んでる私を立ち上がらせるとそのまま足裏に手を回して抱えあげられる。お姫様抱っこと呼ばれるその抱えられ方をされていると気付く余裕もなく、その不安定さに思わず近場にあった男性と思われるその人の首に腕を回して身体をしっかり固定する。
「ちょ、一体どこに……」
「皆のところ。ごめん、探すのにちょっと手間取った」
「意味が全然分から――」
「真白っ!?」
何が起こってるのか、この男性が一体誰なのかとか色々なことに頭の中をぐちゃぐちゃとさせていると、聞きなれた声が聞こえてきてそちらに意識が向く。
薄暗い会場でもシルエットだけで分かる。というか向こうもよく分かったものだと感心していると男性からやって来た千草に私は手渡されて、千草にギュッと抱えられる
「まったく、少し目を離したらいないから焦ったぞ」
「ごめんなさい」
心配をかけたのはこちら。素直に謝り私もギュッと抱き着く。ホッとする安心するよく知る人の体温に上がっていた心拍数も落ち着くのを感じる。
「変な男に絡まれてたから、そっちの対応も頼むよ」
「すまない、妹が迷惑を……ってあれ?」
「どうしたの?」
「いや、さっきの男性の姿が……」
キョロキョロとしている様子の千草に埋めていた顔を起こして一緒に辺りを見回すと、確かに千草の言う通り私を助けてくれた男の人の姿が忽然と消えていた。
薄暗い会場とはいえ、男性は高めの身長をしていたように思う。細身で背の高い男性だというのはなんとなくわかったけど、顔とか特徴はイマイチわからなかった。
それでもすぐ近くにいた人を見失うようなことはないと思うのだけど。
「きゅきゅきゅっ」
「あっ、パッシオ」
入れ替わるように登って来たパッシオにすりすりと頬ずりをしてあげる。たぶん、千草をこの近くまで案内してくれたのはパッシオだ。ありがとね、相棒。
「仕方ない、見つけたらお礼をしないとな。お義母様、見つけました。ハイ、どうやら男に絡まれていたようで、ハイこちらに警備を――」
光さんに連絡を取る千草に抱きかかえられながら移動する私は、あの助けてくれた人が誰なのか、特徴を思い出そうと必死に頭をひねるのだった。




