秘密
とにかく、懸念することが多い。上流階級から抜け出したのに、また戻るのかというのもあるし、迷惑をかけたくないとか、そういう考えもたくさん脳裏によぎる。
結果として、悪い気はしないという無難な言葉が私の口から出ていた。
「……大人になると、考えることがたくさんありますよね」
「はっ、まるで一度大人になったことがあるみたいな言い方だな。でも、そうだな。私もそう思うよ」
パッシオを優しく撫でていた真白から不意にそんな言葉が飛んでくる。その通りだと私も思う。
もう子供みたいにがむしゃらに何も考えずに何かをするってのは、どうしても出来ない。
立場もある。子供もいるし、生活を考えると無茶は出来ない。無難に安全に、確実な方向へと思考を巡らせ模索する。
それを大人になるっていうんだけど、思い切りの良さがなくなるからチャンスも逃しがちになる。
一長一短ってやつだな。どうしても歳を取ると保守的になる。嫌なもんだな。
「まずは話をしてみる。碧のことも含めてな」
「そのほうが良いと思います。碧ちゃんも考えることがたくさんあると思いますから」
「だよな。よしっ、分かった。ありがとうなお前ら」
そう言って、私は立ち上がる。悩みすぎも趣味じゃない。まずは話をしなきゃいけない相手に話をするところからだ。
そう考えをまとめれば、少し気が楽になった。結論を今すぐ出すわけじゃないしな。
碧に話してなかったことを全部話して、翔也さんと会って話してみて、それから話を詰めていくべきだ。
我ながら上手く吹っ切れた。その場を提供してくれたこいつらにも感謝しないとな。
それじゃあ、と手を振りながら私はラウンジから出ていく。手始めに光先輩と詰める話を詰めるのが良さそうだ。
良いように使ってくれてるんだ。こっちも都合よくつかわせてもらうぜ。光先輩。
おっ、と冷ましたというかすっかりぬるくなっただろうスープを飲みながらスマホをいじっていた朱莉が声を上げる。
暇つぶしに持ってきていた携帯ゲームを一旦スリープにしてそちらを向くと、朱莉がこちらにスマホの画面を向けていた。
「なになに?後で雫さんからお話があると思うよ、か。ったく忙しいのに余計な気を回すなっての」
「良いじゃない。雫さんからしっかり説明してもらう機会を作ってもらったんだから」
「しっかり聞いたほうが良いと思いますよ」
スマホのメッセアプリのやり取り、真白からのメッセには【後で雫さんから碧ちゃんにお話があると思う】という旨の内容であり、パーティーの接待で忙しいだろうにわざわざ手を回させたことに頭が痛い。
が、紫の言う通り申し訳ないと同時にありがたい気持ちもある。お袋にウチから切り出せば、間違いなく喧嘩になってたのはウチでも簡単に想像が出来る。
余計な心配をかけさせたのだから、しっかりお袋とは話をしねぇとな……。
「あっ、またメッセ来た。……あっちも結構暇みたいね」
「わぁ、皆ドレス姿で可愛いなぁ。羨ましい」
「ったく、どいつもこいつも気楽でいいなチクショウ」
送られてきたのは千草、真白、墨亜それとパッシオでケーキを食べる様子の自撮り写真。
全員パーティー用に着飾っているけどから確かに綺麗だけど、お前ら思っている以上に暇なのな。ちょっと心配して損したわ。
「ドレスに似た衣装なら変身すりゃウチと千草以外はそうだろ」
「あれは戦うための姿だもの。おしゃれするのとは全然違うわよ」
「自分のデザインした衣装を着てみたいですね。魔法少女の衣装も悪くはないんですけど」
がっちり鎧って感じのウチの魔法少女衣装と、着物が衣装の千草以外は魔法少女の衣装ってのは基本的にドレスっぽいのがベースになってるとウチは思ってる。
真白が変身するアリウムは典型例だな。ありゃ完全にドレスだ。あの格好のままパーティーに出ても違和感ないだろうな。
朱莉の変身するルビーや紫の変身するアメティアもドレスがベースだ。改造や装飾はあるけどよ。
「贅沢な奴らめ」
ワガママばかりの妹たちに悪態をつきながら、ウチは暇つぶしの携帯ゲームを再開させる。あーあ、気が重いぜ。




