秘密
インスタントのスープを啜りながらぼんやりとスマホを眺める。
思えば、最近のお袋の様子はちっとおかしかった。
仕事はお嬢様学校の保健医。それなりに忙しいみたいだけど、準公務員みたいな扱いらしくて、給料は安定しているし、残業は少ない。
休日出勤とか、なんかの講習を受けに行ったりとか、そういう仕事に必要なことを勉強するためにあっちこっち行ってることはあったけど、それにしたって最近は妙に忙しそうだった。
「……」
「やっぱり雫さんのこと、気になる?」
「まぁ、な。気にならねぇって言ったらウソだわな」
あんまり難しい顔をしてたのか、ゆかりが熱いスープの入った紙コップにふぅふぅと息を吹き入れながらお袋のことについて聞いてくる。
ウチはそれに口ごもりながらも思ったままのことを口にした。
そりゃそうだろ。親が自分知らない場所で自分の知らない顔をしてたら、気になるのが当たり前だと思う。
挙句、聞いてみたら関係ないと来た。不貞腐れる権利くらいはあるはずだ。
「お袋のことだから、どうせ隠したってしょうがない事を隠し事が苦手なくせに隠してるんだと思うんだけどな。あの言い方もカチンと来たし」
「雫さんにしては妙に棘のある言い方だったわよね。まあ、一応会場の3人が何か聞き出してくれるんじゃない?」
「ったく、余計な事すんなっつーの」
アツアツのスープを無理やり冷ますためにミネラルウォーターを注いでいる朱莉がなんか余計なことをしたらしい。
コイツ、千草たちにお袋のことチクったみたいだ。あいつらはあいつらで忙しいんだから、余計な仕事を増やすなっつーの。
「家に帰ったら、お袋からウチが聞き出せば良いだけの話だろ」
「それで大ゲンカでもされたら飛び火するのは私の家と紫の家だもの。事前の防衛策はとってしかるべきじゃない?」
「口だけは達者になりやがってこの野郎……」
小学校高学年辺りから口が達者になってただでさえ生意気だった朱莉が最近更に生意気になり始めて、手を焼く。
ああ言えばこう言いやがって。紫ものらりくらりとウチの言うことを躱すようになり始めて姉としてきっちり〆るところは〆ねぇとな。
いや、暴力とかそういう話じゃなくてよ。調子に乗ること自体はそんなに悪くねぇけど、乗りすぎると足元を掬われる原因だ。
そういう部分は調子に乗ってる本人はわからねぇからな。上の立場の人間が気を引き締めさせなきゃならねえ。
それは姉貴役の私の役割だ。その点では千草が羨ましいぜ。墨亜はまだそういう年頃じゃねぇし、真白はウチらの中で多分一番大人だ。
そういう面倒を見る必要はないんだよな。
「はぁ~」
「なによ、珍しくため息なんて吐いて」
「姉には姉の苦労ってやつがあんの」
「はぁ?苦労してるようには見えないけど」
「まぁまぁ朱莉ちゃん」
一々突っかかる朱莉に頭を悩ませながら、紫が引きはがしてくれているのもありがたく思う。
喧嘩っ早いのは誰に似たんだか。まぁ、十中八九私に似たんだけどな。
昔はもうちょいお淑やかだったんだがなぁ。腕白させ過ぎたか、今更おせぇけどよ。
さてはて、小生意気に育った妹達の手綱を握りながら、お袋のことにも探りを入れなきゃいけねぇってのがめんどくせえな。
わざわざ人の隠し事を突くなんてらしくねぇと思うんだけど、何かありそうなんだよな。
悪いことではないと思うんだけどよ。なんか落ち着かねぇ。こういう時、この妙な勘の良さが厄介にも感じる。
ふんわりとしか予感がないからな。それ以上いったら勘じゃなくて予知だから、魔法の域なんだけどよ。
なんつーか、一波乱起きそうってやつだな。