諸星家主催のパーティーにて
子供の頃から身に着けた教養は大人になってもそう簡単に抜けるものじゃない。
少なくとも、雫さんは結構礼儀や所作にうるさい家柄だと思うけど、
どうだろう?
それを伝えると、ぱちぱちと光さんから拍手が上がる。
「流石は真白ちゃん。元々の洞察力に加えて、私の教えたこともバッチリね。その考察は概ね満点よ」
「えへへ」
褒められるのは悪い気はしない。諸星にいるようになってから、特に【ノーブル】との戦いがあるようになってから、相手の言葉の端々から情報を集めたり、情報を引き出す技術を学んでいたりもする。
まだまだ習い始めたばかりで、一つの言葉で真意を引き出すようなことは出来ないけれど、光さんからの褒めはやっぱり嬉しい。
「あー、もう、分かった分かった。確かにそうだよ。そこそこ良いとこの生まれだ。ったく、先輩の教えをガチで受けてる奴がいるとか勘弁してほしいぜ」
「しかも教え子ですよ」
「やめろ、マジでやめろ」
学生時代の地獄がよみがえると雫さんは震え上がっている。その横であらヤダ失礼だわと光さんはおほほと笑ってるけど目が笑ってない。
余計なことをしたかも知れない。後で頑張ってね。
「本当碧ちゃんにはちゃんと話してください。……信用している親に、隠し事をされるのは親が思っている以上に、子供を傷つけますから」
「……あぁ、分かった。話しておく」
でもそれ以上に気がかりなのは碧ちゃんと雫さんの関係にヒビが入らないかだ。
親子関係というのは、世間で思われているほど決して強くない。
いとも簡単に瓦解することはある。私の家が、そうだったように。
出来るだけ、その気持ちを込めて、雫さんの目をしっかり見て訴えかけると、私の気持ちは伝わったようで、深く頷いてくれた。
良かった、これで碧ちゃんのモヤモヤも晴れると良いんだけど。
「失礼、お話はひとまず終わったでしょうか?」
「えっ?まぁ終わったけど、アンタは?」
そうして、今後の村上家について案じたところで、今までだんまりを決め込んでいた翔也さんが間に入ってくる。
雫さんも翔也さんの顔までは把握してなかったらしく、怪訝そうな顔で少しばかり背の高い翔也さんを見上げると、翔也さんはニッコリと笑ってから自己紹介を始める。
「諸星 翔也。諸星グループの会長の長男で、現在は諸星商社の社長を勤めさせていただいております」
「諸星の?本家筋じゃねぇか。そんなビッグな奴が私に何の用だ?」
そこまで来て、あっと千草と私は声を上げるももしやこの人、と思ったところで、光さんやもう一人の女性も何かに気づいたらしく、呆れたような表情をしていた。
まーた、ちょっかいかける気だよこの人。確かに雫さん美人だもんね。バツイチっぽいけど、そんなの関係ない人には関係ないらしいし、まぁ個人の自由だけど、どうかと思うよ?
「私と、結婚を前提にお付き合いをしていただけませんでしょうか」
そして、私達は予想をはるかに飛び越えた言葉にあんぐりと口を開けることになった。
結婚。法令的な、或いは昔からの慣例的な表現で言うなら婚姻の方が正しいとされるそれは、男女の関係の中で最も進んだ先にあるものと言えるだろう。
現代の価値観で考えるならば、とある男女がどこかで出会い、親交を深め、やがて恋仲となって最後にお互いを支えるパートナーとして生涯を誓う。
端的に言えば、結婚とはそういうものだ。簡単に口にしていいものではなく。相手の人生と自身の人生を共に歩む運命共同体になってほしいと、酸いも甘いも苦楽も共に歩んでほしいと相手に無理難題を突き付ける、あえて酷く言うのならこういうことである。
それを、この男性は初対面であろう雫さんに言ってのけたのだ。
「……は?」
思わず雫さんもこの返事である。それはそうだ。今まで自身の娘の事や、実家のことを話していたのに、その横に偶然いた男にいきなり愛の告白。
私も絶対同じ反応をすると思う。




