諸星家主催のパーティーにて
雫さんも私達の姿に気が付いたようで、バツが悪そうに表情を歪めてから光さんと改めて向き合う。
「ちっ、紫か朱莉の入れ知恵か。言っときますけど光先輩、こっちに戻るのは私だけ。絶対にアオをこっちの世界には連れて来させないですからね」
「分かってるわよ。それは私からも貴女の実家にキツく言っておくわ。元より貴女が実家を飛び出したのも、あの家が外の世界に憧れる貴女を飼い殺しにしようとした結果だものね。私はもちろん貴女の味方。ただ、その前に子供たちの味方よ。使えるものは使った方が手札が増える。それは、碧ちゃんのためにもなるのよ?」
「……ちっ」
光さんとの口論は、雫さんが折れるという形で決着したようだ。思いっきり舌打ちこそしたものの、雫さんはそれ以上何を言うでもなく、不満げに組んだ腕を指先で叩いていた。
その様子に間に入っていた女性もほっと息を吐いて安堵している。どうやら、私達が来たことで思っていたよりも剣呑とした雰囲気が落ち着いたみたいだった。
「ホント、アンタのその目的のためなら手段を選ばないやり方は嫌いだよ」
「分かってる。それでも、いつも最後は信じてくれたでしょう?今回も姉さんに任せなさい」
「けっ」
ぱちんとウィンクをした光さんから顔をそっぽを向いて反抗する姿は碧ちゃんそっくりだ。
やっぱり親子だなぁ。ちょっと羨ましい。
私はそういうの、ないから。
些細なことで少し感傷に浸ってると、マフラーの中でパッシオがもぞもぞと動いてひょっこり顔を出す。
うん、代わりに大事な相棒がいるし、今の環境には本当に助けられてるからわがままばっかりも言ってられないよね。
「お前ら、アオに余計な事吹き込むなよ。これは大人の問題だ。ガキが首を突っ込むな」
少しだけ物思いにふけっていると、さわりだけだけど話を聞いていた私達に雫さんは口止めをして来る。
大人の事情、ね。親からすれば子供に不要なことを伝えないための優しさだけど、子供からしたら訳も分からず隠し事をされているだけだ。あまり面白いものではないよね。
「私達は、無関係ですけど碧ちゃんにはちゃんと話した方が良いと思います」
「あ?」
私に言い返されるとは思わなかったのか、雫さんの眉間に皺が寄る。怖いけど、恐れるものではない、そこにあるのはきっと愛情だ。
何か、碧ちゃんに良くないものが、恐らく雫さんのルーツ。家柄に関わりがあるはず。
ともなれば。
「多分、元お嬢さまなんですよね?雫さんって」
「なっ?!」
「それで、きっとご実家で何かあったんですよね?あまり、良くないものが。少なくとも雫さんとそのご両親の関係を引き裂くほどの何かが」
とりあえず、会話の端々から得た情報での推測をぶつけてみる。推測は推測。外れていることもあるだろうけど、トンチンカンなことを言っているつもりはない。
前回の集まりの時にも感じた親しさに近いものは、雫さんと光さんの付き合いが相応に長いもの。
家に戻らない、ということは雫さんとその実家は絶縁状態。で、それを光さんが間を取り持って、多少の繋がりは回復させようとした。
なぜそれをするのか、光さんなら間違いなく、それが大きな利点をもたらすからだ。
家との繋がりを回復することで手に入るモノ、と言えば綺麗な話で行けば親子関係の回復だけど、光さんがそれで利点を得るわけがない。だとするならば別。もっと大きなものだ。
例えば、家同士の繋がりや、権力ある実家であるならそのバックアップが期待できるなど。
このパーティーに呼ばれるほどの家柄出身なら、呼ばれること自体は不自然ではないね。
それに、今思えば、雫さんは身だしなみはガサツだけど、その所作はやけに綺麗だったように思う。
特に座る動作だ。度々どさりと荒っぽく座っているのを見てはいたけど、勢いをつけているだけでスマートに、最小限の動作で白衣が皺にならないように座っていた。




