諸星家主催のパーティーにて
パーティー会場にいる人の数は、更に増していて、この広い会場でもかなりの人がいることは一目見て分かった。
流石にすれ違うのに困るほどの人口密度ではないけれど、人混みを3人で並んで歩くには少々不都合なレベルだ。千草が手綱を引くように私達の立ち位置を調整しながら人の間を縫うようにして歩いていく。
度々千草だと分かって声を掛けて来る人もいるが、私と墨亜の手を引いているのを見てあいさつ程度に留めてくれる。
大変不本意だが、子供の手を引いて誰かを探している様子の人の足をわざわざ止めさせる無粋な人はこの会場ではやはりごく少数。
何人かは光さんや玄太郎さんがどこにいるのかを教えてくれる優しい人たちもいた。そんな人たちにお礼を言いながら、会場を練り歩いていると、また声を掛けられた。
「千草」
「ん?あぁ、翔也兄さんか」
若い男性の声に足を止め、振り返るとそこにいたのはクール、という情報が真っ先に脳裏に浮かぶ、メガネが似合う男性の姿だった。
きっかりとスーツを着込み、臙脂色のネクタイと星をかたどったネクタイピンが良く映える。しっかりと磨かれた革靴も、この男性がいかにもデキるというビシッとした雰囲気を伝える要因だった。
「翔也お兄さん、お久しぶりです」
「久しぶり墨亜。父さんの言う通り、少し背が伸びたかな?」
「うん!!」
ぺこりとお辞儀をして挨拶をする墨亜に、クールな印象のする顔立ちを優しく緩ませてから翔也お兄さんと呼ばれた男性もお辞儀をする。
お兄さん、ということは千草や墨亜ちゃんはそれなり交流のある人だということみたいだ。
千草も軽く挨拶をすると、男性の目はこちらに向く。思わず、千草の後ろに隠れるけど千草からは大丈夫だと声を掛けられた。
「ははは、ごめんごめん。少し配慮が足りなかった。君が噂の真白ちゃんだね?初めまして、俺は諸星 翔也。千草と墨亜の従兄妹に当たる。将来は君も、になるのかな?」
「初めまして。真白、です。おどろいちゃってごめんなさい」
朗らかに笑いながら、私の視線に合わせて自己紹介をしてくれたのは諸星 翔也さん。どうやら、諸星の会長、檀さんの息子さんみたいだ。
通りで千草や墨亜とも親しげなわけだ。従兄妹であるなら会う機会はそれなりにあるだろう。
そんな翔也さんにぺこりとお辞儀をしてから差し出された手を恐る恐る握る。
そうすると翔也さんはニッコリとまた笑ってからその手に顔を近づけて……。
「キューっ!!!!」
「あいたぁっ?!」
飛び出して来たパッシオにその手を噛まれてのたうちまわっていた。
噛んだパッシオは私の腕の上で毛を逆立てて威嚇の真っ最中だ。何が起こったのかが全く分かっていない私がただただポカンとしていると、千草の呆れた声が頭上から聞こえてくる。
「相変わらずの好色っぷりだな。それで諸星の社長だというのだから頭が痛い」
「いったたたた……。美しくて可愛らしい女性にはお近づきになりたいじゃないか。千草といい、真白ちゃんといい、手厳しすぎない?」
「当たり前だ。見た目だけ擬態してるカメレオンに誰が近づくか」
「カメレオンは酷くない?いやぁ、しっかし痛い。まさか優秀なナイトが身を隠していたとはね……」
手をプラプラとさせて千草に応じる翔也さんの会話を聞いて、ようやく私は何が起こったのかを理解した。
たぶん、手の甲にキスしようとしていたみたいだ。
更に聞く分にはどうやらたくさんの女性に同じようなことをしている様子。千草のカメレオンというのは的を射ているように思える。確かに見事な擬態だ。
とてもそんな好色そうなことをするような人には思えない。
「しかしまぁ。良かった。握手は出来るくらいには回復してるんだね。父さんが無理を言ったって聞いてたから心配だったんだ」
「出来るなら止めて欲しかったがな」
「耳が痛いね」
千草のとげのある言い方に、面目ないと苦笑いする翔也さんは痛むであろう指先を押さえながらすくっと立ち上がった。
しばらく反省してほしい。




