諸星家主催のパーティーにて
スマホのバイブレーションが持っていたポーチの中で鳴る。すよすよといつの間にか眠っていた私はその音で目を覚ますと、あくびと伸びをしてから、近くに置いていたポーチの中からスマホ、もとい魔法具である『イキシア』を取り出して通知を確認した。
「お母さんから?」
「ううん、朱莉から。なんだろ?」
近くで本を読んでいたらしい墨亜が、本を閉じて、こちらにとたとたとやって来て一緒に画面をのぞき込む。
その寄りかかって画面をのぞき込む際に、私の膝の上で寝ていたパッシオがぎゅむっとつぶされて悲鳴が聞こえてきたけど、まぁパッシオなら大丈夫でしょ。
「うーん?雫先生が?」
「ん?先生がどうかしたのか?」
朱莉から来ていたメッセージを呼んで思わず声が出ると、その内容に反応して少し離れたソファーでくつろいできた千草もやって来た。
千草も私も、保健医の雫先生。碧ちゃんのお母さんには度々お世話になっている。
その先生が、なんとこのパーティーに来ているらしい。しかも、碧ちゃんには内緒で。
「うん、先生がパーティーに出てるみたい」
「先生が?なんでまた」
「先生って、お姉ちゃん達の方の保健の先生で、碧お姉ちゃんのお母さんの?」
そのことを伝えると、千草も墨亜も首を傾げる。2人もそのことは知らないらしい。
何か知らない?と来ていたメッセージに私達3人は知らないことを入力して、送信する。
向こうも暇なのか、それともこの件についてすぐに知りたいのか、既読は送ってすぐについた。
「碧も何も聞いてないのか。あんまり隠し事をするような人だとは思えないんだが……」
「碧お姉ちゃんとそっくりだもんね」
雫先生も碧ちゃんも、『カエルの子はカエル』のことわざを体現するようにそっくりな性格で、豪快で細かいことは考えない性格だと思う。
嘘とか言うのはめんどくさいから、本音で思ったことをすぐに口にして行動するタイプ。
千草の言う通り隠し事はしない、というか苦手な傾向のある人だとは思うんだけど、そんな人が実の娘である碧ちゃんに隠し事をするとは思えなかった。
「電話は、したみたいだな」
「うん。でも、教えてもらえなかったみたいで、それが原因で碧ちゃんも相当不機嫌みたい」
「まぁ、碧の性格を考えれば当然か」
隠し事をされる、ということ自体あんまりいい気分じゃないし。隠し事はしない碧ちゃんからすれば、最も近しい人であるお母さんの雫さんに何も教えてもらえない、というのはとっても面白くないことなんだろうな、とは思う。
逆に、隠し事するにも何かしら理由があるはず。しかも、親が子にってことはいやがらせとか、仲間外れにするための低レベルなことが理由の隠し事じゃない筈。
もっとちゃんとした、碧ちゃんのためを思っての隠し事だと考えるのが妥当だと思う。
本当なら、周囲が突くことではないと思うんだけど……。
「多分、ママがなんかやった」
「だよな……」
「だよね……」
私達の認識は一緒だったみたいだ。多分、というか絶対に光さんがなんかやったんだろうなぁ。
この前、みんなで遊んだ時に妙に光さんと雫さんの仲が良かった。というよりは、光さんが雫さんを猫かわいがりというかちょっかいかけまくってたって感じが近い。
友人、というよりは雫さんが光さんを振り払えないって感じだった。逆らえない、って言い方をすると何か恩人的な、あるいは先輩や後輩、という間柄の可能性の方が高いかな。
大学とかで何か繋がりがあった、とみるべきだと思う。
「一応、私達でお義母様に事情をそれとなく聞いてみるか」
「それが良さそう。光さんを相手に心理戦はやりたくないんだけどな」
「ママ、怖い」
舌戦ともなると光さんは物凄く強い。ああ言えばこう言うとかではなく、シンプルに真正面から叩きのめされる。
お説教の時は反論も許されないうえに、そのお説教の内容がぐうの音も出ない内容だから反論のしようもない、と言うのが正しい。
それはここにいる面々が嫌と言うほど分かっている。
「私達も探して、様子見て来るね、と。じゃあ、行こう」
「だな。真白、墨亜も手をしっかり繋ぐぞ。人が多いからな」
「はーい」
ソファーから降りて、身だしなみを整えると千草の手をしっかりと繋いでからラウンジの出入り口へと向かう。
たくさんの人がいるだろうけど、不躾な人はごく少数。それをさっきの挨拶回りで分かっているので、私は手さえ繋いでいれば大丈夫なはずだ。
床で伸びていたパッシオが肩に上ってマフラーの中に隠れたのを確認してから、私達はラウンジの外、パーティー会場へと、改めて足を踏み入れた。