秘密
「は?」
「え?」
「……?」
3人そろってテレビを凝視する。間抜けな顔と声もセットだ。
そんなことになったのはもちろん理由がある。その理由ってのはこれももちろんテレビが原因だ。
テレビ画面に映された、青いドレスに身を包んだ女性。普段はぼさぼさにしてる髪を綺麗に整えて、美人なのにてんで化粧もせずに出勤してる人がバッチリと化粧をしている。見慣れてるけど、見慣れないその姿は。
「お、お袋?!」
村上 雫。間違いなく、ウチのお袋が世界のVIPに混ざってレッドカーペットの上を不機嫌そうに歩いているのが液晶テレビの画面に映し出されていた。
「や、やっぱりそうよね?えっ、雫さんって仕事何してたっけ?」
「会社の経営とかしてましたっけ?」
「いやいやいやいや。学校の保健医だよ。ほら、千草たちが通ってるお嬢様学校の」
たしか郡女つったっけか?めちゃくちゃお金のかかる超お嬢様学校らしくて、生半可な金持ちじゃ通うことも出来ないらしいお嬢様学校。
いや、確かに金入りは良いってことは聞いたけど、それでもこのパーティーに呼ばれるようなもんでもないだろ?
たかが保健医だぜ?他にも何人かいるっていうし、そんな人たちが他にいる様子も見えない。
なんでお袋が?ウチの頭の中はプチパニック状態だ。
「そういえば、この前みんなで遊んだ時に、千草さんたちのお母さんを雫さんが先輩って言ってたような……」
「じゃ、じゃあ雫さんは千草たちのお母さんに招待されたってこと?」
「先輩後輩つったってわざわざこんなパーティーに呼ぶ理由にはなんねぇだろ……。もし呼ぶならあん時いた親全員だろ」
ウチのお袋だけ呼ぶ理由にはならねぇ。先輩後輩ってことは学校かなんかが一緒だったのかも知んねぇけど、それだけでお袋をこんなでかいパーティーに呼ぶのはマジで意味不明だ。
仲が良いで呼ぶなら、あの時いた朱莉と紫、あと舞の親もだ。
その全員を呼んでるなら分かるけど、そうじゃない。ウチの親だけ。
「意味わからん。お袋に電話してくる」
「ちょっ、待ってください。何がどうなってるのかもわからないのにいきなり直接の連絡は……」
「あっ、もしもしお袋?」
わかんねぇことは本人に聞くに限る。ウチは紫を引きずりながら、容赦なくお袋に電話を掛ける。
幸い、すぐにお袋は出てくれた。電話の奥からはわいわいガヤガヤと賑わう人の声が聞こえてくる。
お袋の職場じゃないのはこれだけで確定だ。やっぱり、あのテレビに映ったのはお袋らしい。
【なんだ?仕事中だろ?】
「ウチらの仕事は監視じゃなくて切り札だからな。なにもなければ暇なんだよ。ってかそれよりもなんでお袋がパーティー会場にいるんだよ。テレビに映ってたぜ?」
【……】
電話越しから聞こえて来た声はあからさまに不機嫌なのが分かった。ただでさえ荒っぽい口調がもっと荒い。ウチも人の事は言えねぇけどさ。普段のお袋はもうちょっと丁寧だ。
そんな機嫌の悪いお袋に躊躇いなくウチは思ったことをぶつける。遠回しにしたってしょうがねぇしな。
【……アオには関係ないことだ。気にするな。お母さんは忙しいから切るぞ。少し遅くなるかも知れないから、そうだな朱里のところに行くと良い。由香は今仕事が忙しいらしいから】
「え?あっ、オイ?!」
ぶつんと無遠慮に電話を切られる。何回かリダイヤルしてみるけど、全然出てくれない。
なんなんだよ……。
「雫さんはなんて?」
「ウチには、関係ないってさ。なんだよ、それ……」
なんだか妙にムカついて、スマホをクッションの上に叩きつける。関係ないってなんだよ、関係あんだろ。私は娘だろ。
むかむかイライラとする感情を隠さないまま、ウチはプレハブのドアを乱雑に開けて外に出る。
冷たい空気が肌を刺す。納得いかねぇ、それだけがウチの心の中に渦巻いていた。




