秘密
テレビのチャンネルを一通り回した後に電源を切る。ぷつんっと電源を落とされた液晶テレビは当たり前だけど、真っ暗な画面になって退屈そうに頬杖をつくウチの姿を映していた。
「はー、つっまんねぇな~。どこもかしこも似たようなニュース中継ばっかだ」
「名目上は諸星主催の懇親パーティーですけど、裏では国際会議的な一面もありますからね。各国、各街の要人も多く集まりますから注目度も高いんですよ」
「と言っても、どの局も揃い踏みで同じ内容を報道しても仕方なくない?もうキャスターが違うくらいの差しかないわよね」
なんだよなぁ、一大行事っつーのは去年も一昨年もやってるからわかるんだけどよ。だからといってこの街で見られる放送局全部がこのパーティーについてのニュース特番じゃなくてもよくね?
まるで王様がパーティー開いてるみたいだ。ある意味、間違ってはねぇと思うけどな。
今や諸星は世界の流通を掌握してるっていっても過言じゃねぇ。陸路、海路を使った貿易流通網が壊滅した10年前。
そこからわずか2年程度であれよあれよという間に航空での流通網を確立させた諸星は小さな国ほどの資金を持ってるって言われてる。
そん時の魔法少女達が同じタイミングでS級魔獣の一体、『天幻魔竜 バハムート』を討伐したっていうベストなタイミングだったってのもあるけど、そこからの開拓と掌握のスピードがヤバかったらしい。
天啓か、天才か。何はともあれあっという間に規模を街と街の間から国から国へとの国家レベルのそれに発展させた諸星の流通網に当時の世界は縋り付くしかなかったってのもある。
なんせ、当時は魔獣が猛威を振るっていた最盛期だ。対応策は魔法少女だけ。でも魔法少女は数も少ない上に、S級魔獣とかいう一番やべえやつの対応に手いっぱい。
国と街はそれぞれ命からがら逃げ延びた一般市民たちを生かすために四苦八苦してたらしい。
街に畑が豊富なら、魔獣被害にビビりながらでも食い物はどうにかなったかもしれねぇ。
逆に街に物資が豊富なら分け合うことも可能だ。
ただし、これには限度があるし、足りなくなるものが絶対出て来る。それを補うのが貿易、流通だったんだが、それを断たれた現代人は魔獣被害だけじゃなく、食い物とか生活物資、それとインフラにも困ったってわけだ。
ウチも当時7歳だったか?あんまり覚えてねぇけど、お袋がウチを朱莉と紫の親に預けて、仕事に出てた記憶がある。
朱莉は当時5歳、紫は当時6歳。ウチもだけど、当然ガキだ。何もできないし何が起こってるのかも分かっていなかった。
とにかく、何かと親達がウチ達に食い物を回してくれたのを覚えてる。今思えば、お袋たちは飲まず食わずだったんのかも知れねえ。
そんな中、流通が切り開かれたの知れば当然そこに飛びつく。そうやって出来上がったのが、諸星っていう巨大な会社、らしい。
ウチも先生の話を聞いただけだから、詳しくは知らね。諸星がたった10年でここまで巨大化した理由でもある。
「しっかし、ウチらのメンツの半分が諸星ってのも変な話だよな。あいつらお嬢様だぜ?」
「本当なら、絶対関わりのない人たちよね。こうして見ると改めて住んでる世界は違うって感じるわ」
そんな諸星のほぼ直系の家に生まれながら、あるいはそこに養子に迎えられながら、魔法少女をしてるあいつら3人がなんだって魔法少女をやってるのかが不思議だ。
朱莉の言う通り、あいつらとウチらは住んでる世界が違う。千草と真白も本来は違うのかも知んねぇけど、今は立派なお嬢様だ。
一番安全なところに住んで、一番厳重に守られている人種。そんな立場でありながら、この世で一番危険な仕事である魔法少女をしているのは色々と不都合があるって思うんだけどな。
「でも、私達は千草さんと真白さんと墨亜ちゃんと、お友達で仲間なんですよね」
「だな」
「そうね。わざわざ難しく考える必要もないわよね」
ま、紫の言う通りそんなことは思ってもしょうがねぇ。それぞれ何か理由があって魔法少女してんのは承知の上。生まれがどうのと言ったところで良いことはねぇよな。余計なお世話ってやつだ。
そう思いながら、ウチらは懲りずにテレビの電源をつける。そして、映ってる見覚えがあり過ぎる、予想外の人が映ってることに度肝を抜くことになった。




