それぞれの魔法少女
「――と言った具合に、私達が対話した野良の魔法少女『アリウムフルール』にこちらを害する意図は無い、との証言。並びに私達の判断です、雛森さん」
「そう、ありがとう。皆はこの件について何か意見がある?」
アメティアちゃん、改めて本田 紫ちゃんはアリウムフルールに関する今回の報告を危険性は無い、という判断をしたと表明して締めくくった
監督者として、気になる点は幾つかあるけど何か訳があって政府所属の魔法少女にはならないと主張している以上は、私達は政府の人間はあまり無理強いは出来ない
とは言え、今回の意見はアリウムフルールに対して好意的だった紫ちゃんと、今回の接触で好意的な感情を持ったアズールちゃん、改めて村上 碧ちゃんの意見だ。他の魔法少女達の意見も聞いた方が良いので、私は周囲に座っている他の魔法少女の子達にも意見を促す
「私は、アリウムお姉ちゃんは悪い人じゃないと思う。優しくて、綺麗な人」
最初に意見して来たのは意外にも諸星 墨亜ちゃん。この中で最年少の11歳の魔法少女で魔法少女名は『綺羅星の魔法少女 ノワールエトワール』。皆からはノワールと言われていて、普段は物静かで大人しいあまり意見のしない女の子だ
そんな彼女がいの一番に意見したことに驚きながら、彼女の隣に座る凛とした雰囲気の女子高生にも目を向ける
「……少々癪ですが、墨亜と同じ意見です。食えないところはありますが、決してこちらに攻撃的な感情は向けて来ないし、幾つかの実績もある。少なくとも敵ではないと思います」
彼女は緑川 千草。現役の女子高生で、もう6年近く魔法少女を熟すベテランの魔法少女だ。魔法少女名は『翠剣の魔法少女 フェイツェイ』。珍しい和装の魔法少女で、ノワールちゃんの指導を普段から任せている子だ
「私からもアリウムにこちらを害する意図は無いと判断します。……私の先走りが原因ですが、彼女には何度も助けられていますから」
そして、先日から謹慎中の『陽炎の魔法少女 シャイニールビー』である金本 朱莉ちゃん。彼女こそ、アリウムからの援護を最も受けたので、向けている感情はともかく、印象自体は決して悪いモノじゃあないのだろう
【その場にいなくて申し訳ないけど、話を聞く限りでは私もそのアリウムフルールと言う魔法少女は良い子だなって思うな。出来ればその理由も話して欲しいけど、話せないから野良やってる訳だし、難しいだろうなぁ】
「海外遠征中に通信しちゃってごめんね、ふーちゃん。一応、この街の魔法少女のリーダーの貴女にも耳に入れておいて欲しくて」
そしてもう一人、この街所属の最強の魔法少女がいるのだが、その高い戦力故に彼女は世界各国の要請を受けては世界中を飛び回っている忙しい子だ
今回は海外遠征中に無理を言って、通信を繋げてもらっている状況で聞こえて来る声はスピーカー越しの少し籠った声になってしまっている
【このくらいはどうってことないって。それより気になるのは、アリウムちゃんが育児放棄を受けている可能性があるって報告の方が深刻だよ】
「そうね。寝耳に水とはこのことだわ。幾ら本人が平気だって言っても、政府に所属する人間としても、一人の大人としても出来れば早急に保護してあげたいのだけれど」
多分、逃げるのよねぇアリウムちゃん。政府側との接触も、所属する魔法少女を通してだし、徹底して大人と接触することを避けてる感じがする
やっぱり、ご両親との軋轢が原因の大人嫌いなのかしら?何にせよ、せめて一度は腰を据えてお話したいのだけど、何かいい方法は無いかしらね……
「アリウムお姉ちゃん、お家に帰ってないんでしょ?いつも何処で寝てるのかな……」
「確かに……。アリウムの言っていることが本当なら、自宅には帰っていないと見るべきだ。自宅にいれば、どんなに嫌でも声や顔は何処かで見る。それが、数年単位で見てないとなると、家出をしている筈だ」
「普通に考えるなら、親戚の家とか友達の家とかじゃねぇか?」
「それなら警察や行政機関に何らかの届け出が出てるかも知れませんね」
「まさか野宿をしてる訳はないしね。それこそ警察沙汰の騒ぎよ」
墨亜ちゃんから始まり、それぞれ皆がアリウムちゃんの普段の生活を心配する
皆優しい子達で、両親やその周りにも恵まれている子達だ。そうではない様子のアリウムが心配になるのは、当然の感性だろう
【ともかく、しばらくはアリウムフルールと仲良くしながら、可能なら彼女の経過観察と、こちら側への勧誘をして行こう。出来れば、それ以外の支援の提案もして欲しいけど……】
「そこは私の仕事です。関係省庁や行政機関に少し相談してみます」
【さすがは雛森ちゃん、頼りになるね】
最後に通信越しに茶化されたところで、今回の報告会はお開きとなった
アリウムちゃん、本当に何事も無いのなら良いのだけれど……