親たちの懇親会
ふふふっと思わず笑みが零れる。ほんの少しだけドアを開けて中を覗く視線の先には、7人の女の子たちと二匹のペットがぐーすかと思い思いの寝相で寝転がっていた。
「よくお眠りになっておりますか?」
「えぇ、すっかり。明日の朝までは起きないでしょうね」
美弥子に問われ、私も子供たちを起こさないよう静かに答える。
今日のお昼ごろから始まったという河川敷を貸し切ってのバーベキューは子供たちにとってとても良い時間になったらしい。
お昼を食べ終えてからは体力と時間が許すだけ走り回り、遊び回り、はしゃぎ倒していたみたいで使用人の一人が撮影していた様子を見ているとまぁ中々派手に楽しんだようだった。
なにせ見た目は年頃の女の子といっても、実際は戦闘訓練をバリバリに熟す魔法少女達。近距離が得意な子は勿論、遠距離が得意な子ですら、その体捌きは大人も目を剥く俊敏さと正確さ。
そんな子達が本気で身体を動かす遊びをすると、同年代の子達とは全然違う、本気の身体の動かし方を取り入れた遊びになるのだ。
もうちょっとしたプロスポーツの試合にも見えるレベル。そのくらい激しく動いている。
「あれだけ動き回ったのなら、明日の朝までぐっすりでしょうね」
「千草様ですら車から降ろす時もぐっすりでしたので。いくら魔法少女とはいえ、変身していなければ身体の疲労はそのまま蓄積されますから」
魔法少女の特徴の一つとして、常時より体力が長く持つというものがある。
実際は体力の上限は変わっておらず、身体を動かすエネルギーに魔力の補助を入れているので、体力の消耗自体が少なくなっているのだ。
そのため、彼女達は激しい動きをする魔獣との戦闘を疲労こそもちろんあるが、長い時間行うことが出来るわけだ。
今回の遊びは当然魔法少女には変身していないので、体力自体は素だ。
元々、訓練を重ねて、同年代の子供たちとは段違いの体力を有している彼女達だが、それでも普段変身して行う動きを変身せずに行い続ければ、体力はすっからかんになる。
そうなれば、帰りの車の中で全員が仲良く爆睡と言う訳だ。
使い魔の二匹は流石にまだ余裕があるようで、私が子供たちが寝ている部屋を開けた時にピクリと耳を動かしたり、薄く目を開けてこちらを窺っていたが、危害を加えないと分かるとまた一緒に寝息を立て始めていた。
少し前まで、彼女達がこうして一堂に会してプライベートで遊び倒すなんてことはなかった。千草と墨亜の関係も正直あまり上手くいってなかった。
そんなギクシャクとした、凝り固まりつつあった関係に一石を投じたのはアリウムフルール、真白ちゃんなのは間違いようもない。
あの子が来てから、この街の魔法少女は飛躍的に関係性が向上し、そして実力もメキメキと上げている。
あの子が現れてから色んな事が動き出した。あの子を取り巻く現実は複雑で、そして謎に包まれている。
それでもあの子には、いやだからこそ複雑怪奇な事情を持っているだろうあの子には幸せになる権利がある。そして、あの子を保護する私達には幸せにする義務がある。私は本気でそう思っている。
母として大人として、子供のより良い未来こそがこの世界にとって良い未来だ。
最近では、何やら魔法庁とその周辺で真白ちゃんを嗅ぎまわるような輩が増えてきたが、そんな事は断じてさせない。
ありとあらゆる手段と方法を使って、私はあの子達を大人として守る。
そのことは諸星の本家にも伝え、色良い返事がもらえた。代わりに真白ちゃんをパーティーに参加させるようにとの通達も来たが、そのくらいならお安い御用だろう。
そんな大人として真白ちゃんを含めた魔法少女を守るために出来ることはまだある。むしろこれからやることの方が多いくらいだ。
「ご両親達には通達通りに?」
「ハイ問題ありません。全て済ませ、既に皆さん応接間に集まっておいでです」
「良かった。一度はしっかり親同士で交流を深めたかったのよね」
その布石の第一弾が、親同士の交流会だ。
魔法少女同士の関係が薄かった前だと、出会う機会すらなかったけれどこうして子供たち同士が遊ぶのであれば親同士の交流自体は実に自然だ。
親同士の結託が強ければ、子供たちにもしもの事態があった場合、他の親たちも味方になって立ち上がってくれる。
親の横のつながりの強さは半端ない。時には国のおかしな方針や納得がいかないやり方を真正面から突っぱねる程の強さを持っている。
使いどころさえ間違わなければ、これ以上はない武器になるはずだ。
それに、この親の名簿の中に久々に見る名前もあったから少し楽しみなのだ。
「皆さんのご様子は?」
「少々落ち着かれないようでしたが、今はお茶を楽しみながら談笑なされているようです」
なら良い。突然の呼び出しにも快く答えてくれた人達だ。出来る限りのもてなしをするのが私の出来る最大限の事の一つだろう。
ヒールを廊下のカーペットに沈ませながら、私と美弥子は子供たちの両親が待っている応接間へと足を向けた。




