なんてことない日常のひと時を
まぁ、確かに皆、会った当初からすると角が取れたというか丸くなった感じはする。千草や朱莉が分かりやすい。
最初はあの二人は私の事を嫌っている節すらあったのに、今ではヘタすると一番仲が良いのではないだろうか?
「それに、お屋敷の雰囲気もそうです。真白様が来る前はもうちょっと硬いというか、少し距離感があるご関係だったと思います。特に千草様は周囲から一歩二歩引いていましたから。墨亜様もそれを察してか、甘えるというよりは義務的に姉と呼んでいたような雰囲気がありましたがそれが段々と無くなって来て、最近では本当に三姉妹のような仲睦まじさで、わたくし達は安心していたのです」
そうだったのか。私が知ってる千草と墨亜は普通に仲の良い姉妹だから、それが私が来てからの変化だというのは知らなかった。
確かに千草は不器用だし、墨亜ちゃんは思っているよりずっと大人だ。そんな二人のタイプが噛み合うかと言われると確かに上手く行かなそうではある。
「真白様は、私達にとって突然やって来た。……そうですね、幸福を呼ぶ天使のような方なのですよ」
「言い過ぎだよ。そんな立派なものじゃないって」
「私は、そう思います。見てください」
美弥子さんに言われて、私は周囲に目を向ける。
秋晴れの河川敷で、碧ちゃんが千草に無理矢理肩を組んで何か大声で笑っている。千草も止めろみたいな仕草をしているけど笑ってそれを振り払おうって感じじゃない。
紫ちゃんは一人で黙々と食べていた墨亜のお世話をしながら一緒にあれが美味しかった、これが美味しかったと話をしている。
朱莉は十三さんのところに行って、食材の美味しい焼き加減を習っているみたい。楽しそうに笑う十三さんと、しかめっ面をしながらお肉のベストな焼き加減を測っている朱莉の様子がなんだかおもしろい。
舞ちゃんはパッシオとリオ君のところにいた。なんでか一人と二匹で早食い競争をしているのはなんでだろ。流石に魔獣には勝てないんじゃないかな……。
その周りでは一部の調子のいい使用人の人達が囃し立てている。後で怒られそうだ。
そんな光景。皆が皆、笑っている、そんな光景だ。
「これは、真白様がいなければ多分なかった光景です。千草様と碧様が肩を並べて笑っているのを私は見たことも聞いたことがありませんし、墨亜様が千草様や使用人、奥様以外の人にお世話されているのもないでしょう。朱莉様がああして執事長と触れ合うことはなかったでしょうし、舞様に至っては本来ならこの場にいない筈です」
言われてみれば、そうかも知れない。千草と碧は少し前はもっとギスギスしてたような気がするし、墨亜ちゃんは千草の後ろにべったりだった筈だし、紫ちゃんも墨亜ちゃんのお世話よりは碧ちゃんや朱莉ちゃんの方に視線を向けていたと思う。
朱莉が十三さんからあんな真剣に何かを習う切っ掛けになったのは今回のバーベキューだし、舞ちゃんは私が見つけた隠れ魔法少女だ。
「この光景は、真白様がいなければ決してなかったのでしょう。言わば、この光景は真白様が作ったと言っても過言でありません」
「だから、言い過ぎだって」
照れ臭いどころの話ではない。私はそんな立派じゃない。私はそんな……。
「真白!!ちょっとこのバカどうにかしてくれ!!」
「良いじゃねぇかよ。なぁ真白?」
「真白お姉ちゃん、こっちで一緒に食べよう!!」
「これスッゴイ美味しいですよ」
「真白~、アンタただでさえヒョロイんだからちゃんと食べなさいよ。私がしこたま焼いてあげるわ」
「むぐむぐっ、んぐっ。真白せんぱーい!!たくさん食べるならボクのとこにいっぱいありますよ!!」
「きゅいきゅい!!」
「にゃーん」
皆から図ったように一斉に声が掛かる。タイミングが良すぎて目を丸くしてしまうくらいには、絶妙なタイミング。
美弥子さんも驚いた表情をしてから、私のお皿を持って背中を押してきた。
「ほら、皆さんが呼んでいますよ」
「……もうっ、順番に行くからちょっと待ってて!!」
一斉に声を掛けられても身体は一つしかないんだから、同時には行けないって。
肩を竦めて、私は座っていた椅子から飛び降りるとまずは千草と碧ちゃんのところに行く。
この光景が私がいなきゃなかったものなのかどうかは、私には分からないけど悪くはないのは確かだ。
これがこのまま、更に発展していけばもっと良いことになるのかも知れない。
実際はどうだか分からないけど、そう思うことにする。良いことは良いと前向きに捉えよう。
養子の話に関しては、じっくり考えてから答えてもらって良いよと言ってもらえたのなら、今回もその好意に甘えよう。
もしかしたら、そのくらいの気楽さで良いのかも知れない。