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それぞれの魔法少女


「アメティアちゃん、その辺にしてあげて」


泣き出しそう、というか既にもう半分くらい泣いているアズールへのお説教を止めるべく、俺はアメティアへと話しかける


物理的な攻撃は得意でも、精神的な口撃にはめっぽう弱い様子のアズールはしょんぼりと肩を落としてしっかりきっかり反省している様だし、俺にも非がある以上は一方的な悪者にもしたくないという考えもある


ただまぁ、手に持っている戦斧の刃先が足元にあるマンション屋上のコンクリートに刺さっているので、それは早めに抜いたほうが良いのではないかと思う。後で処理部隊の人が直すんだろうなぁ……


「アリウムさん……。すみません、ウチのアズールが」


「良いって、私が怪しい野良だって言うのは正しいしね」


頭を下げて謝罪するアメティアは見た目年齢の割に相当出来た子だと思う。かなり礼儀正しい上に、発想は柔軟な方だろう。甘い、とも取れるが基本的に知性のあるモノと戦うことが少ない魔法少女に、その辺りの駆け引きは殆ど不要な要素でもある


「アズールもほら、謝って」


「ごびぇんなしゃい」


半泣きからマジ泣きに変わりつつあるアズールに、俺は仕方ないなと肩を落としながら、肩にいるパッシオに少し視線を向けると、彼が何処からともなくティッシュを取り出す。それで垂れそうな鼻水やらを拭いてやり、気にしてないから良いわ、と声を掛けておくのも忘れない


「チーン!!」


「あぁ、もう、はしたないんだから……」


俺に補助されながら盛大に鼻をかむアズールにアメティアが頭を抱えるが、そんなの気にしないと言わんばかりのアズールは満足したのかティッシュから顔を離して満面の笑み


「お前、良いやつだな!!」


そしてこの言葉。流石に単純すぎやしないかと心配になる

目を離した時に飴ちゃんで怪しいおじさんにくっ付いて行ったりしないだろうか、物凄く心配だ


「……言いたいことは分かりますが、普段はもうちょっとマシなので」


「もうちょっとなのかぁ」


もうちょっとというアメティアの言葉にますます心配になる俺だが、今はそこを心配するところではない

そもそも彼女の日常は彼女の周りにいる大人が保証するはずであるから、大丈夫だろう


「さて、この際だからお話しましょうか?聞きたい事、あるんでしょ?」


「はいはーい!!なんでアリウムは野良やってるんだ?」


「色々お手数をおかけします。いや、ホントにすみません」


まだ処理班のサイレンが聞こえないという事は、少しくらいは時間があるのか、それともアメティアが時間を確保してくれたのか


何にせよ、ようやく彼女達と腰を据えて話せるタイミングが来たのは良いことだ。こちらの立場と主張を政府側に伝えるいい機会になる


「アメティアも言ってたけど、野良には野良なりの理由があるの。所謂訳アリ、ってヤツね」


「親に反対されてんのか?」


「そもそも親とは不仲過ぎて離れて暮らしてるわ。ここ数年は声も顔も見てないし聞いて無いわね」


親の話をされて、咄嗟に口に出た内容に俺は思わずハッとする。初対面でまだ若い彼女達に聞かせる内容じゃない。まずったな、と思った俺が二人の表情を確認すると、案の定二人とも気まずそうな、心配そうな表情でこちらを窺っていた


「それなら、ウチ等と一緒にやろうぜ?お金もらえるぞ?」


「アリウムさんって高校生くらいですよね?それなら立派な育児放棄です。政府に所属すれば支援が――」


「大丈夫、ちゃんと生活は出来てるから」


「でもよ」


「大丈夫。ね?」


心配する側から一転、心配される側になってしまった。参ったなぁと頬を掻きながら、大丈夫だと彼女達を言い聞かせると、渋々と言った様子ではあるがなんとか声を収めてくれた


「ともかく、私は私なりに考えがあってワザと野良をしてるわ」


「その考えは、話してもらえますか?」


「ごめん。今は話すつもりはないかな。ただ、あなた達と敵対する意思は無いわ。食い扶持を奪うつもりもない」


「……成る程、だから現れる時は魔法少女が負傷するような時か、周囲に魔法少女がまだいない時だったんですね」


たった一言で、理解してくれたアメティアの頭の回転の良さには関心するばかりだ。見た目からして中学生だろうに、よくそこまで考えが回る


同年代だった頃の自分は、もっと子供だったなぁと思いながらアメティアの推測に俺は頷いて応えた

アズールはイマイチ分かっていないような顔だが、まぁ後でかみ砕いた説明をしてもらえるだろう


「念のために確認したいです。貴女が野良を続ける理由に、犯罪行為になるようなことは含まれますか?」


「犯罪になるようなことは考えてないわ。この辺りは信じてほしいってしか言えないけれどね」


「そうですか。それなら、私からは魔法庁に伝えておきます」


「お願いするわ。じゃあ、私はこの辺でお暇するわね。わざわざ時間を作ってくれて、感謝するわ」


彼女達に現段階で伝えたい事を伝え、俺は再び跳躍してその場を去る。振り返るとアズールが大手を振って見送ってくれているのが面白くて吹き出してしまった


個性的で、良い子達ばかりだ。だからこそ俺達は――


そう逡巡しながら、俺は眼下に広がる街を眺めた


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